2013年から2014年もインフルエンザが大流行しました。私は予防の為にワクチン接種を強く主張してきましたが、実はインフルエンザワクチンって女性に比較して、男性の場合効果が少ないという報告があります。別にそれに関する論文を隠していたわけではありませんが⋯。
テストステロンの分泌量が多いと免疫反応が低下する
男性はテストステロンと言うホルモンが女性と比較してダントツに多く、というかテストステロン自体が睾丸を表す Testicleを語源とするTestosteroneと英語では書きますので男性が男性であるためのホルモンなのです。
男性の場合、テストステロンの分泌量が多いと、ワクチンなどの外から与えられて免疫を高めようとする治療に対して効果が出にくいということは以前から知られていました。私たち医師は思わぬ針刺し事故によるB型肝炎ウイルスに対して予防接種を打つことが多いのですが、私は20回ほどB型肝炎ワクチンを接種しているんですが未だに抗体が着かないのです。自分自身のことですので、以前からワクチンによる効果が少ないことに関する論文はマークしていました。ちょうどインフルエンザワクチンの接種を皆さんが始める時期にこんな論文が提出されました。
Proceedings of the National Academy of Sciences(日本では米国科学アカデミー紀要と呼ばれています)に「Systems analysis of sex differences reveals an immunosuppressive role for testosterone in the response to influenza vaccination」というタイトルで掲載されています(Proc Natl Acad Sci U S A. Jan 14, 2014; 111 (2) : 869–874.)。「テストステロンによる免疫抑制効果とインフルエンザワクチン予防接種の性差を分析」しました、という内容です。
インフルエンザワクチンだけでなく、テストステロンは免疫力と強く関係
今回の論文は男性34人,女性53人を対象にした研究です。その結果男性でインフルエンザワクチンに対する抗体反応が弱い人はテストステロン値が高かったとなっています。
つまりテストステロン値が高い男性は予防接種によって抗体が着きにくい⋯予防接種の効果が弱いということです。この結果はテストステロン値を高めていることに関連がある、いくつかの遺伝子によって免疫反応が影響を受けるということがわかっただけであって、免疫反応の強弱とテストステロンが直接関連している訳ではないので注意が必要です。
自己免疫性の病気も明らかに男女によって差があるのはなぜだろう?
免疫機能が関連する病気の中で自己免疫疾患と呼ばれるものがあります。代表的なものでは甲状腺機能亢進症、関節リウマチ、全身性エリテマトーデスなどがあります。これらの病気は明らかに男女によって発症率が違っています。
男性はインフルエンザワクチンが効きにくいという単純な疑問からテストステロンに影響する遺伝子との関連がわかりました。ひょっとするとその遺伝子群をさらに研究することによってこれらの自己免疫疾患の治療が遺伝子レベルで可能になるかもしれません。医学の研究って今は無駄な研究でも将来に繋がる可能性を秘めています、面白いと思う人が少しでも増えていくことは今後の日本の医療研究の裾野が広がることになりますので、「これって面白いな」と感じた題材を微力ながらイチ町医者の私もブログを書いて紹介していきますね。