医師が処方する、つまり一般には販売されていない基礎化粧品をドクターズコスメと呼んでいると考えている方もいるかも知れません。
効果的で安全なドクターズコスメって実際にあるんだろうか?
効果があるものは基本的には化粧品と言えないで「医薬部外品」に相当します⋯今回の白斑被害を引き起こしたカネボウのシリーズは医薬部外品成分であるロドデノール(Rhododenol)が含まれていました。
一般に販売しないで、医師の処方するものとして使っていただければここまで被害者が拡大することはなかったのでないかと残念に思います。以前もブログで「ドクターズコスメと普通の化粧品の違い、知っていますか?」と題して化粧品について書きました。
その後カネボウの白斑被害者の方が集団訴訟を行ったために、多くの方に化粧品と医薬部外品、医薬品の違いに関して知識を高めていただき、トラブルに巻き込まれないようにしていただきたいと考えています。先ずはドクターズコスメについてのまとめですが、
1:ドクターズコスメに対する定義は存在しない
医師の処方によって医薬品に分類された成分が入っているからドクターズコスメと呼べるわけではありませんし、医療機関でした購入できない化粧品をドクターズコスメと呼んでいるわけではありません。清涼飲料水の「ドクターペッパー」てありますけど、あれを「お医者さんが奨める飲料水」と解釈する人はいませんよね!それと同じで単なる名称と考えてください。
私はコーラより、こっちの方が好きですが売っている所が少ないのが欠点です
2:医師が院内で患者さんに独自に処方した基礎化粧品もある
日本でも非常に有名なドクターズコスメとしては「オバジシリーズ」に勝るものはないのではないでしょうか?このオバジですが、私は非常に思い入れがある商品でして今から15年くらい前に日本では全く注目されていなかったこのシリーズを米国の美容外科医師から教えてもらって、「お前、日本でも販売権を抑えろよ」と親切にアドバイスされました。数人分のオバジシリーズを持ち帰り、私を含めてスタッフで試したところ顔は真っ赤っか、皮膚はボロボロ、笑うだけで痛みが走る、なんてそれこそ健康被害のパレードでした。
このオバジシリーズはトレチノインとハイドロキノンが含まれているものであり、医療機関で扱うにしても効果はあるのに、効果がでるまでの期間は外出もできないような化粧品でした。今ではトレチノインもハイドロキノンも美肌成分として知られていますが、「コリャ日本では一般的にならないよ」といいながら米国の美容外科医にお断りの連絡をしました。その後、医療機関専門でオバジニューダームシリーズが使用されるようになって、大手大衆薬メーカーが規制されている成分を抜いて一般の化粧品として販売していますが、医療機関であるていど知名度を高めその後一般化粧品として売り出す戦略は商売上手というしかありません。
このオバジも皆さんが気軽に手にできるものと、医療機関で扱っているものは全くの別物と考えてください。
3:医師が全く関係していない名前だけのドクターズコスメもある
ドクターズコスメってドクターペッパーと同じ意味なので、中には開発にさえ医師が全く関わっていないものがあっても法律上は許されてしまいます。当院でも私や他の医師と成分を考えて患者さんにレーザー治療後のケアのために基礎化粧品をお渡ししていましたが、レーザー治療が終了しても基礎化粧品として継続して使用したいとの希望者が多かった為に、医薬品に分類される成分を含まないローションやジェルを開発しました。
その理由としては化粧品として使用するのに定期的に受診をしてもらうのは、まず不可能ですし、遠方の方がレーザーが化粧品として利用するのにワザワザ当院までお越しいただくのも心苦しい気持ちがあった為です。さらにあくまで化粧品であって医薬品ではないという認識を使用する方に持っていただけるように、今では開発は当院の医師により行いましたが、製造販売は別の会社にお願いしています。医師が開発した化粧品も数多くありますが、中には医師がどこでどのように関わったのか明確になっていないドクターズコスメも見かけます。
私の考えとしてはドクターズコスメという呼び方に定義はありませんが、どんな医師が開発して、どこのクリニックで実際に使用されているかくらいはわかる製品をお使いいただくことを提案します。化粧品を販売する為の広告は規制がありますので、白衣を来た医師が化粧品を手にして「私がお薦めします」的なものは禁じられているはずなのにネット上や折り込み広告で見かけるのは、厚生労働省などのお役所があまりに増えた効果的な化粧品の広告を全てチェック出来ないという物理的な盲点をついた戦法に思われます。
自然派のドクターズコスメって何じゃそりゃ
食べ物・生活習慣・運動により健康を維持していけるなら、なんの問題もありません。漢方薬を中心として治療を行っている医師もいますが、全部が全部漢方で治してしまおう、という極端な医師は少ないはずですが、医師の中にも、化学的に合成された医薬品を毛嫌いしている一派が少数ですがいます。
アスピリンという薬を知らない人はいないでしょうけど、これはもともとヤナギに含まれている成分を化学的に合成したものなのです。ヤナギの樹皮が痛みや熱に効果があることは、今から数千年前から知られていてそれを必要ない成分を除外して、有効な成分だけ抽出したのがアスピリンなんです。ですから漢方薬なんて全く効果がない、という考え方は大間違いです。漢方薬の有効成分を抽出してエキス状にしたものは日常の診療で使用されています。
葉っぱを煎じた方が有効であるという漢方医もいますが、その原料の植物などが農薬に汚染されていない保証ってあるんでしょうか?
自然派を謳ったドクターズコスメも存在しますが、その説明を読み込むとなにが自然派の定義なのかさっぱりわかりません。漢方医が開発した基礎化粧品を自然派のドクターズコスメと呼んでいるとしたら、それはそれで結構なことです、ドクターズコスメの定義自体が決まっていないのですから。
ちなみに最近「ステロイドを含まないアトピーの特効薬的な塗り薬」を販売していた医師が問題になりましたね、実はステロイドが含まれていたって。その自然派の塗り薬に含まれていたステロイド剤って私たちが処方する場合も「これはメチャ効果があるけど、長期に渡って使用すると副作用があるから、一週間後に必ず再診してね」と付け加える様なものが含まれていたんです。自然派って言う言葉も厳格な定義を決めないと危ないのではないでしょうか?
カネボウの医薬部外品による白斑被害のような悲劇を繰り返さないように
カネボウって漢方薬と中心とした処方薬(医師の処方箋が必要な薬)を扱っていますが、なぜ効果効能がある美白成分であるロドデノールを含む基礎化粧品を医薬部外品として、薬物に十分な知識がなくても販売できる美容部員によって売らせていたのでしょうか?売っていた美容部員のなかには自分で使用して白斑がでていたが、美白効果の現れだと考えていた人もいました。効果効能がある成分を含んでいるのですから、医師によって患者さんに手渡させる商品として扱うことは検討していなかったのでしょうか?オバジでさえ、効果が高いものは医療機関でした扱えません。医科向けの地道な販売ルートを開拓して、そのシリーズの名前を有名にしてから一般の方が簡単に購入できる商品を開発するという手順さえ踏んでいれば今回の様な健康被害を引き起こさないで済んだと思われます。
ある意味ではロドデノールを改良すれば、美白効果が高い医薬品が開発される可能性まで無くしてしまった、カネボウの罪はカネボウ社が考ているより大きいものです。