つい先日「死亡リスクがコーヒー1日4杯飲むと高まるって本当?」ってブログを書いたばっかりなのに、今度は前立腺がんのリスクを減らすという論文が出てきました。
コーヒーを1日4杯以上のむと全死亡リスクが上昇って論文があったのに
「Coffee and tea consumption in relation to prostate cancer prognosis」っていう題名で「Cancer Causes and Control」の8月号に掲載されました。
この学会誌はインパクトファクターが3.199ですので、それほど権威のあるものとは評価されていません。インパクトファクターとはその点数が高ければ高いほど権威のあるものとされており、医学部の教授の選挙に出馬するとき必ず書類に書き添える「その人がどれだけ一生懸命研究をして論文を書き、その論文が権威ある医学誌に掲載されたか?」の目安にするものです。
世界ランキングです
インパクトファクターが高いものに掲載されたからと言って必ずしもその論文の記載内容が全て正しいとは限りません。しかし、将来偉い先生になろうとする人は必死になってインパクトファクターを集めています。
実際トムソンロイターのデータベースである 「Web of Science」を基準として弾き出されている数字です。最高にインパクトファクターが高いものはアメリカがん協会 (American Cancer Society) のCA( A Cancer Journal for Clinicians)で101点くらいあります。2位は私のブログでおなじみのニューイングランドジャーナルで、日本の医学誌は200点くらいが評価の対象になっています。
日本の雑誌のインパクトファクターです⋯日本語は対象外
しかし、英文中心なので日本語の論文を一生懸命書いても評価されないために批判の対象になってもいることも事実です。ノーベル賞の対象になると言われている「ネイチャー」はこのようになっています。
今回の「コーヒー4杯以上で前立腺がんリスク低減」のインパクトファクターに比較して、以前の「コーヒー4杯以上で死亡リスクが上昇」はインパクトファクターは5くらいですので後者に書いてある論文の方が正しいというわけではありませんのでご注意ください。
その前に少し前立腺がんについて説明します
前立腺がんは病気の進行がとっても緩慢なものですが、死亡リスクは顕微鏡でがん細胞を観察して悪性度を分類します。 Gleason スコアと呼ばれる方法を取っており1-10までに分類され数字が多くなるほど悪性度が高くなります。顕微鏡下で最も多く見られる悪性度のパターン(Gleason pattern )と次に多く見られるパターンを評価してこのパターンの総計をGleason スコアと呼んでいます。今回の論文の内容
方法は2002年から2005年までに前立腺がんと診断された男性1001名を対象にコーヒーをどのくらい消費していたかを調べました。そしてコーヒーの消費量と前立腺がんの再発や進行のリスクとの関係を調べました。
1001人の中からがんが転移していない人で厳しい調査に応じてくれた人は630人でした。この方たちは、厳しい条件の調査としてアンケートや面接に応じてくれて、前立腺がんと診断されるまえの食生活や生活習慣、家族の情報、飲んでいた薬、以前にがんの検診をどのくらい受診していたかなどハッキリ言えば面倒なことに対応してくれた人々です。
この方たちをがんと診断されてから5年間の追跡調査が行われました。これを前向きの調査と呼び、過去の論文を調べたり、結果から原因を調査する後ろ向きの研究と違って一般の方にもわかりやすい研究と思われます。
- 毎日1杯以上のコーヒーを飲んでいた人は61%
- 毎日4杯以上コーヒーを飲んでいた人は12%
その結果
コーヒーを1日に1杯しか飲まなかった人に比べてコーヒーを1日4杯以上飲むとリスクは59%減少
つまり、前立腺がんになった場合コーヒーを1日に4杯以上飲んだ方が進行や再発のリスクが低くなっていたのです。
お茶と前立腺がんの関係は日本が先行して知っていました
前立腺がんの発生は欧米と比較してアジアでは圧倒的に低いことに疑問を抱いた優れた論文が日本発でだされています。例えば「日本人男性における緑茶の消費と前立腺がんリスク:前向き研究」として国立がんセンターが中心となって行われた今回と同じような前向きの研究では限局性の前立腺がんとの関連は認められませんでしたが、悪性度の高い前立腺がんとは密接な関連があることが分かっています。
・緑茶を1日に5杯以上飲む人は進行性の前立腺がんのリスクを低下させる
と結論しています。
「Green tea consumption and prostate cancer risk in Japanese men: a prospective study」(American Journal of Epidemiology Volume 167, Issue 1Pp. 71-77)しかし、この医学専門誌は残念ながらインパクトファクターは5.5ですから、今回取り上げた論文と大差はありません。何とはなしに欧米優先の風潮が感じられます。日本人の控えめな性格が論文にも出てしまうのかもしれません。
更に多くの緑茶と前立腺がんの関連を示した論文があるのですが、ほとんどのものが結果として緑茶は前立腺がんの発生または進行に関連していて、リスクを少なくするというものです。
とにかく英語でバンバン論文を投稿しないと
緑茶の方ががんとの関連を日本で早い時期に見つけられていたのに、残念ながらコーヒーについての論文の方が世界的には話題になっている事実。
arizona green teaは世界中で見かけます⋯不味いけどコーヒーより緑茶の方が世界的にマイナーだからじゃないという考え方もできますが、先進国と呼ばれるところでは緑茶を入手することはそれほど難しいことではありません。日本でも優秀な研究者はいっぱい居るのですから、バンバン世界に向けて情報を積極的に発信していかなければいけないのです。海外の論文は明らかに話題性を意識した書き方のものも見受けられます。例えば「10歳代で妊娠すると32%も肥満リスクが上昇する、という論文の陰に隠れた政治的なメッセージ」で取り上げた論文など典型的です。
マイナーな医学雑誌から話題性があると思って、死亡リスクがコーヒー1日4杯飲むと高まると思ってブログを書いた私ですが、言い訳を一つ言わせてください。
コーヒーを頻回に飲むようなストレスがかかるような生活をしている人は全ての病気において、死亡リスクが高まるとも解釈できる、と私は「コーヒーで死亡リスクが高まる」についてのブログ中に書いております。