当院の患者さんでスポーツ選手も多いのですが、薬を処方する場合は「ドーピング検査」にかなり注意を払って使用しています。特にオリンピック選手の場合、薬を服用するとき注意しなければいけないドーピング違反になる薬物が小冊子になっているのですが、小冊子と呼べるものではなくシッカリ一冊の本になっています。
ドーピングに引っかかるスポーツ選手
このようなものも出ています。
これらを参考にしてスポーツ選手はドーピング違反にならない様に気を付けなければなりません。
特に注意を必要とするものは
筋肉強化剤とか筋肉増加剤などと呼ばれるアナボリックステロイドです。
「エナルモン」という薬があり、この薬は再生不良性貧血,骨髄線維症,腎性貧血などに使用することが多いのですが、男子性腺機能不全という病気にも使用されます。また、最近見かけることが多くなったと思われる「男性の更年期障害」⋯LOH症候群 (Late onset hypogonadism symdrome) と呼ばれる病気にも使用されています。
この病気は数年前まで私たち専門家の間では気になる病気・症状とされていましたが、NHKの健康番組で取り上げたことにより患者さんが急増しています。
女性の更年期障害との違い
主な症状は女性の更年期障害とされる症状⋯不定愁訴が中心です。不定愁訴とは、発汗やほてり・倦怠感・意欲の低下・不眠・いらいら・精神の不安・めまいなどを指し、検査で数値化して評価しにくい症状がランダムに出現してきます。
そのため心無い医師によっては「気にし過ぎですよ!」で済まされていました。
女性の更年期障害は閉経期と前後するのですが、男性の場合は35歳くらいから上は60歳代までと範囲が広く専門家以外は診断に困る場合が多いのです。しかし、簡単な見分け方もあります。男性の場合は殆どの症例で性欲の減少や朝立ち回数の減少など男性機能・勃起能力の低下が伴うのです。それに前述の精神症状が合わさった場合は、LOH症候群を疑ってみます。
血液検査で分かる男性更年期障害
この症状を引き起こすのは男性ホルモンの代表であるテストステロンの減少と考えられています。なぜテストステロンが減少するかは明確にはなっていません。
都会に住む40歳前後の男性のテストステロンの量は、なんと60歳以上でリタイアして悠々自適の生活を送っているオッサンより少ないというデータがあり、いわゆるストレス・精神的プレッシャーがテストステロンの減少をもたらしていると言われています。
テストステロンは採血によって簡単に検査することができます。一般的に総テストステロンは60歳くらいまであまり減少しませんが、遊離テストステロンは20 歳代を境に年々減少して来ることがしられています。ただ、この個人差は大きいので明確な基準値はありませんが、遊離テストステロンが15pg/ml以下であったらLOH症候群と診断して治療を開始することを考えます。
男性更年期の治療は?
男性ホルモンの注射による男性ホルモン補充療法が一般的です。つまりアナボリックステロイドの分類されるテストステロンを一定期間筋肉注射をしていきます。予想外に多くの方が治療後効果を感じることが多いのですが、一番即効性で出てくる病状の回復は「朝立ち」です。
今まで全く朝立ちが無かった方が注射の翌日から、朝立ちが見られて感激して報告のため予定診察日より早めに来院してしまうことがあるくらい男性にとっては感動的な症状の回復なのです。次に現れる症状の回復は漠然とした言い方になりますが「モチベーションのアップ」です。
男女で特徴的な症状が少し違っていますが、回復は朝立ちから始まることが多いです
やる気がない、疲れやすいなどの精神症状が回復することによって、仕事などでストレス・プレッシャーのよる負のスパイラルから脱出することが出来るのです。
気になるアナボリックステロイドの副作用
アナボリックステロイドの注射、つまり男性ホルモン補充療法は外部からテストステロンを体内に強制的入れる方法ですので、実際に男性の体でテストステロンを産出している睾丸が「テストステロンが体内に十分あるから、あまり自分でテストステロンを作らなくていいんだ」と判断する負のフィードバックと言われる現象が起こります。
その結果、睾丸が小さくなり精子をつくる能力が低下するリスクがあります。また、男性ホルモンは前立腺がんに対しては栄養となりますので、治療開始前に血液検査等で前立腺がんがないことを証明してからでないと大変なことになってしまいます。
スポーツ選手の場合、どうすればいいの?
スポーツ選手が男性更年期になってしまった場合、ドーピングの事を考えるとアナボリックステロイドの代表ともいえるエナルモンはモチロン使用できません。しかし、そこであきらめなくても大丈夫ですよ。
泌尿器科の専門医に相談すればED改善薬を男性更年期障害の補助的薬として処方してくれるはずです。その薬はオリンピック委員会のドーピングマニュアルでも禁止薬物には指定されていません。つまり、ドーピング違反にはならないのです。
せっかくメダルを獲得したのにアナボリックステロイドが検出され、メダルをはく奪された選手も多いのです。私の知っているオリンピック選手は風邪薬さえも非常に神経を使って禁止薬物が含まれていないかを気にされています。
今回の世界陸上でT・ゲイ(米国)がドーピング検査で陽性反応がでて出場出来なかったという出来事がありましたが、検出された薬物はアナボリックステロイドだったようです。
なんでこんな薬を使ったのでしょうか?どう見ても筋肉増強が目的と思われても弁解の余地が無いとおもいますが⋯まさか再生不良性貧血,骨髄線維症,腎性貧血だったわけではないでしょうから。