以前から男性型脱毛症いわゆるハゲ・薄毛と前立腺肥大症・前立腺がんは独立した事象ではなく関連性があるように私たちは捉えてきました。
以前ブログで前立腺肥大症の薬がハゲに効果がある、とお伝えしました。
今回は前立腺がんとハゲの関係があきらかになった論文が出現しました。
なんとはなしにイメージはつかめますが
男性型脱毛症の治療薬は前立腺がんのリスクを減少させますが、一方前立腺がんの発見を遅らせてしまうことがあるので注意が必要であることをお伝えします。
Use of 5α-reductase inhibitors for lower urinary tract symptoms and risk of prostate cancer in Swedish men: nationwide, population based case-control studyという題名でBMJ 2013; 346に掲載されています。
男性の下部尿路症状と前立腺癌のリスクのために5α-還元酵素阻害剤の使用:全国、人口ベースの症例対照研究ということです。スウェーデンの論文ですが5α-還元酵素阻害剤という薬剤は日本では「プロペシア」の名前で男性のハゲ治療に使用されているものです。 ここにあるAGAが飲み薬が有効なハゲです
このBMJというものはイギリス医師会雑誌と呼ばれるもので、論文の価値を表す指標であるインパクトファクターは17点くらいあり、世界5大医学雑誌を称される格調高い文献です。
単純にいいますと
長期間ハゲの治療薬を飲み続けていると前立腺がんになりにくいですよ、ということです。ここにあるるGleasonスコアとは前立腺がんの悪性度を病理学的分類したもので、数が多く成ればなるほど悪性度が高くなるということです。
グリーソンスコアは前立腺がんを治療するとき、治療法を選択する基準に使用されるとともに予後を占う指標としても使用されています。グリーソンスコアが7を超えると余りよろしくない結果になることが多くなることが知られています。
結果
- グリーソンスコアが6までの前立腺がんのリスクをハゲ治療薬は減少させる
- グリーソンスコアが7であってもハゲ治療薬はリスクを減少させる
- 悪性度の高い前立腺がんへのハゲ治療薬の効果は不明
宿題
- ハゲ治療薬は果たして逆の効果として前立腺がんのリスクを増加させるのか?
が当然提起されます。
プロペシア使用中の方は要注意です
現在男性型脱毛症の治療中の方は「俺は前立腺がんのリスクが少なくなった」と単純に喜んではいけません。5α-還元酵素阻害剤は前立腺がんを発見するためのマーカーであるPSAの値を見せかけ上低くしてしまうのです。
実はPSAが高く前立腺がんのリスクがあるのにこの薬を飲んでいる為に発見が遅れるリスクが生じてしまいます。さらにグリーソンスコアが高い悪性のものである場合は悲惨です。ハゲの治療薬を服用する前に必ずPSAを調べるようにしてください。
必ず一度は専門医の診断を受けてからハゲ治療を行うようにしてください。
なんで自分勝手な治療をうるさく止めるの
実際の経験です。60才代の男性が「ひょっとして自分は前立腺肥大ではないか?」とのことで当院を受診しました。因みにその方はハゲ治療薬は服用してませんでした。正常値は4までであるPSAはなんと500オーバーの結果。長年腰痛とおしっこの出が悪いことを気にしていて、自分なりに原因は腰にあると考えを付けて近くの整体治療院に数年通院していたとのことでした。
黒いスポットが全身の骨に転移した前立腺がんです
整体の治療師もとにかく腰を治せば排尿も改善するという意見であったとのことです。この患者さんは実際には前立腺がんが腰の骨に転移していたのです。実は前立腺肥大と前立腺がんは症状が全く違います。骨の転移などの症状がでたときは完治を期待するには手遅れなのです。
PSA検査の有用性についての議論が続いていますが、私たち専門家はPSAの値のみで前立腺がんを見分けているわけではありません。とにかく診断は医師にお任せください。病名を診断することは医師免許を持っている私たちにのみ許された行為なのです。くれぐれも自己判断はしない様にしましょう!特に並行輸入品の使用は要注意です。