健康診断などでの結果を見ながら体重の変化に驚愕している方も多いと思われます。20歳代の体重と比較して何キロ増えているといけませんよ、とか20歳代の体重が理想ですよ、と指導された方もいると思います。
しかし、今回のテーマはその理想とされる20歳代で肥満だった人はどうなちゃうの?という素朴な疑問を持ったので色々と調べてみたら、結構ショッキングな論文が見つかりました。
20歳代で肥満だと糖尿病のリスクが8倍になる!
これはObesity in young men, and individual and combined risks of type 2 diabetes,cardiovascular morbidity and death before 55 years of ageという題名の論文でした。デンマークで33年間にわたって追跡された記録を基にした気の長いものです。BMJ Open 2013 3: に掲載されています。
なんでこんな研究が可能か?
デンマークは私は知らなかったのですが、徴兵制があるのです。そのため22歳で徴兵検査を受けた人を33年間も追い続けることが可能だったのですね。
このようなある一定の条件下の人たちが何年後かにどのような病気になっているか等を調べる調査方法を「コホート研究」と呼びます。
今までも私のブログにさらっと出てきている言葉ですので、ぜひ憶えていてくださいね。コホート研究は長期間に渡って膨大なデータを収集していきますので、費用と時間がかかってしまうため、一研究機関で行うのは非常に難しい現状があります。
国を挙げて調査をする必要がありますが、徴兵制がある国は比較的データが取りやすいですし、案外外国の人は遠方への引越しをしないので追跡もしやすいようです。
ある時点でこんなことを調査しようとして計画して追跡する方法を前向きの調査、ある時点でこんなことを調査しようとして残っているデータを探しまくるのが後ろ向きの調査と呼ばれます。
今回の調査は前向き33年間のコホート調査ですので、結果はかなりの精度で確実といえます。
結果の詳細は
1955年に徴兵検査をうけたデンマーク人男性6502人を55才になるまで追跡し続けました。22歳から55歳まで追跡したことになります。
- 22歳の時BMIが25以下だった人は83%
- 22歳の時BMIが30以上だった人は1.5%
- 肥満者の48%が55歳になるまでに糖尿、高血圧、心筋梗塞、脳卒中になるか、あるいは死亡していた
さらにBMIが25以下の人と30以上の人を比較すると
- 肥満者は糖尿病の発症が8.2倍?
- 高血圧は2.1倍
- 心筋梗塞は2.1倍
もっと怖い事実は
- 死亡は2.1倍
となっていました。結構恐怖をあおる結果です。
いくつかの疑問点
前向きの研究の場合は、意図した介入は行わないので途中で糖尿病が発見された場合積極的に治療を勧めることはないですし、また22歳で肥満であっても途中でダイエットに励んだ結果ふつうの体重になった人もいる可能性までは考慮はしません。
最初にある事実、この場合は22歳時のBMIが55歳の時点でどのような病気にどのような影響を与えているかだけを見るものです。
しかし、元々データが揃っていますので、途中で糖尿病の治療をした人の死亡率はどうなっているか?とかダイエットをした人はどうなったか?という研究もすることが可能になります。
データの蓄積の重要性
膨大なデータを蓄積することの必要性は国を挙げて考えないといけませんし、それらに同意して強力してくれる国民の理解も必要となってきます。現時点で日本で行われているコホート調査はがんセンターが中心となって
- 放射線作業者のがん死亡追跡調査
- 低周波電磁界と小児がんリスクの関連に関する調査
- 高周波電磁界と脳腫瘍の関連に関する国際調査
などを行っています。
日本では久山町研究と呼ばれる九州大学が調査している非常に貴重なデータが存在しています。しかし、膨大な時間と費用が掛かる研究ですので、日本の医学データが世界にアピールするためには国の理解が必要だとおもいます。
個人情報との兼ね合いが非常にデリケートになりますので、このあたりを行政や有識者に深く考慮していただきたいと思います。