先日わたしのブログに対して「先生の専門はなんですか?」とのお尋ねがありました。
あんたの専門なに?
私は「地域密着型の町医者ですが⋯」と回答させて頂きました。
専門分野だけでは地元の皆様の健康相談にはのれませんので、いろいろな分野の勉強を私なりにはしています。また、美容に関しては専門医が私以外に二名在籍しているのが当院です。
本当の私の専門は「泌尿器科」なのです。泌尿器科ってかなり珍しく一般的な科目ではなかったのですが、高齢社会における前立腺肥大症・前立腺癌・過活動膀胱などの増加に伴って治療法もどんどん進化している科目なのです。
私の所属している学会です。泌尿器科がなんでハゲと関係あるの?
泌尿器科医はさらに専門を分けると癌を研究する人、排尿障害を研究する人、ホルモンを研究する人の三種類に分けられます。実はもっと細かく分類専門化されていますが、泌尿器科でホルモンを治療していることを知らなかった方も多いと思います。
おしっこを作っている腎臓の上に副腎という臓器がありここが人間が生きていく上で重要な働きをする「副腎皮質ホルモン」を作っているのです。さらにさまざまなホルモンが泌尿器科の守備範囲で作られているのです。男性独特のホルモンであるテストステロン等は睾丸で作られています。もちろんここも泌尿器科の守備範囲です。
一方ハゲにホルモンが大きく関連していることは以前から経験的に知られていましたが、理論的な背景も最近はだんだんわかってきました。
ハゲと前立腺がんの関連性が発表された
先日前立腺がんとハゲの関係についての論文が発表されました。じつはこのテーマは有りそうでなかったもので初めてのまとまった文献と言えます。American Association for Cancer Research.Cancerという格調高い学会が出している学会誌 Epidermiology,BIomarker&Prevention (2013:22;589-596) に発表されていました。
この研究のすこし特殊な点は研究の対象になった方はアフリカ系アメリカ人だった点です。これについて説明しますと、前立腺がんは有色人種に確率的におおく発生することが知られています。また、外国の研究は人種間の差を修正するために非常に膨大な方を研究対象にしなければいけないので時間も費用も掛かってしまいますが、今回は対照を絞ったために分かりやすいデータとなったようです。
今回は1988年~2010年にかけて前立腺癌患者さん318人とそうでない方219人を追跡した研究調査です。きになるハゲのタイプは前頭部、頭頂部、ハゲないと分けています。
結果は以下の通り。
- ハゲのタイプは関係なく前立腺がんのリスクを高める
- 特に前頭部がハゲている人は前立腺がんと診断される率が2倍以上になっていた
- 60才以下の人に限っていえば高ステージ前立腺がんのリスクが6倍以上になっていた
つまりハゲが若年性の男性においては前立腺がんの危険因子の可能性が大きい、ということです。
日本人は白人より前立腺癌になりやすく、アフリカ系の人よりはなりにくいとされていますので、今回のこの調査は白人より私たち日本人に関係がある研究結果であると言えます。
泌尿器科の将来は
前立腺肥大症の薬がEDの改善薬であったり、ハゲに前立腺肥大症の薬が効果を発揮したり、前立腺肥大症の薬が前立腺癌のリスクを減らしたり泌尿器科を取り巻く環境はどんどん面白い発見がなされています。
以前は女性患者さんが来院しにくい科、ナンバ-1とされていた泌尿器科ですが、近年では過活動膀胱の啓蒙運動のおかげで女性も来院しやすい科に変わりつつあって、泌尿器科医一同ほっとしていたところに今回の論文です。
前立腺肥大症を改善して、前立腺がんにならなくなって、EDなんて心配しなくて、さらに髪の毛が生えてくる⋯夢の薬が登場したらますます泌尿器科ってオッサン御用達になってしまうというジレンマに陥る私でした。