素人ライターさんが書いたと思える健康医療関連記事でよく見かけるのが睡眠導入剤と認知症の関係。中には睡眠導入剤を飲み続けるとボケる❗なんて感じのいらん不安を読者に与えるような記事さえあります。
医療情報は不安よりも安心がほしいはず。睡眠導入剤なしの生活が考えられない人たちを、さらに追い詰めるような情報が、医療に疎い人によって無責任に発信されているのは非常に残念です。
関係がありそうで関係無い、睡眠導入剤と認知症
以前、ある一定方向の思想がある医師によって「のんではいけない薬」という本が一定方向の政治志向があると言われている出版社から出ました。それ以降、医師が処方する薬に対する批判記事や批判本が売れる、と確信を得たのでしょうか、似たような内容の一般書籍や週刊誌ネタが増えたように感じます。
睡眠導入剤が認知症の原因になる❗なんて説が飛び交っていることは多くの医師が知っているはずです。しかし、なんで認知症の原因になると言われている睡眠導入剤を医師は処方し続けるのでしょうか?上のグラフをよく見てください。
年をとるほど、つまり高齢者になればなるほど睡眠薬や睡眠導入剤を必要としている患者さんは増加しているのです。ひょっとして眠れない、睡眠障害がある、との訴えで睡眠導入剤を処方されている人のうちに多くの認知症予備軍の患者さんが含まれている可能性が強く疑われます。
睡眠導入剤と認知症は本当に関連性があり、睡眠導入剤を飲むと認知症になるので服用をやめることが正しいことなのかを検証してみます。
睡眠導入剤が認知症の原因となる、現時点では否定してもよいと判断します
なかなか寝付けない、ベットに入ってもすぐに目が覚めてしまう、明日寝不足だと仕事に影響が出るから医療機関を受診する方も多いです。
受診して睡眠導入剤を処方されたけど、自宅に帰ってネットを検索したら「飲んではいけない薬 睡眠導入剤」なんて感じの記事が目に入った。駅の売店で購入した週刊誌の医療関連特集で「睡眠導入剤はボケの原因になる」なんて記事を読んで不安になった。そんな話をよく聞きますし、実際に患者さんから
先生、この睡眠導入剤を飲むと認知症になるって友達が言っていたのですけど?
を経験した医師は多数だと思います。
そもそも睡眠薬と認知症の関連性、つまり睡眠薬を服用すると認知症になる、と週刊誌が取り上げた場合に取材した医師が多分参考にしたと思われる論文は「Benzodiazepine use and risk of dementia: prospective population based study」(BMJ 2012;345:e6231)だと思われます。
週刊誌やネット記事で「最近発表されたフランスの研究によれば」的なことが書かれていたら、これが元ネタつまり一次ソースと判断して良さそうです。結果的には
●フランスに住んでいる3777人が対象
●15年間追跡調査して253人が認知症と診断された
●睡眠薬(ここではベンゾジアゼピン)を服用していた人は認知症になるリスクが1.6倍になっていた
これを元にして
睡眠薬を服用すると認知症になるリスクが1.6倍に高まる❗
という話が流布しているのでしょうね。
でもね
ちょっと待った❗この研究は大きな欠点があるのです❗
●まず、対象となった人が飲んでいた睡眠薬の成分は細かい点でマチマチ、同じ薬ではない
●睡眠薬を服用しだして2、3年で認知症と診断されている人がいる
●対象者が65才以上であり認知症が発症する年齢と被っている
などなと多数の疑問点が出てきます。
つまり
たった一つの医学論文を元にして睡眠薬が認知症の原因となると決めつけるのは信頼性が低い
と多くの医師は判断しているのです。
さらにこんな考え方もできます。睡眠薬を服用して認知症になった人が1.6倍との比較ができるのは、睡眠薬を服用していなくても認知症になった人が一定数いるから初めて比較ができるんですよね。ってことは、例えば
●100人が睡眠薬を服用して、そのうち8人が認知症になった
●100人が睡眠薬を服用しないで、そのうち5人が認知症になった
●8人を5人で割ると1.6⋯つまり睡眠薬を服用すると認知症になるリスクが1.6倍❗って結論になった
との解釈もできます。
睡眠薬を服用して8人が認知症になり、不眠症を抱え込んでいたけど認知症になりたくなくて睡眠薬を飲まなかったけど認知症になっちゃった人が5人、睡眠薬を飲もうが飲まないでいようが差はたったの3人、それも15年間症状を我慢して、との解釈をどう皆さんはお考えになりますか?
睡眠薬と認知症の関連性を否定する論文は多数あります。
「Consumption of psychotropic medication in the elderly: a re-evaluation of its effect on cognitive performance.」(Int J Geriatr Psychiatry. 2003 Oct;18 (10) :874-8.)。
「Benzodiazepines may have protective effects against Alzheimer disease」(Alzheimer Dis Assoc Disord. 1998 Mar;12 (1) :14-7.)。
その他多数、探せばゾロゾロ出てきます。
現時点では適正な薬を適正に使用していれば認知症の恐れて睡眠障害の状態を継続する方が健康に悪いと判断している医師がほとんどなのではないでしょうか?
ところで睡眠薬と睡眠導入剤の違いはあまり知られいないようです。
睡眠薬と睡眠導入剤の違いはこれ❗
私のように古い人間にとって「睡眠薬」という言葉はなんとなーく抵抗があります。睡眠薬殺人・睡眠薬自殺・睡眠薬強盗・睡眠薬遊びなど反社会的な行動と言われるような背景に睡眠薬が使用されていたからです。
現在の不眠症を治療する薬は以前のような呼吸抑制作用がかなり抑えられており、ちょっとやそっとの量を間違えて服用しても死に至ることは無いと考えていいでえす。睡眠薬強盗はいまだに時々報道されますが、メインとして使用されているのは睡眠導入剤のようです。睡眠薬遊びはいわゆる「ラリっている」状態を楽しむものであり、今はこんな古めかしい名前は若い人は聞いたことないでしょうね。
睡眠薬と睡眠導入剤の違いは大きく分けて効果が継続する時間です。作用している時間が短いものを睡眠導入剤、作用している時間が長いものを睡眠薬と呼んでいます。現在よく処方される睡眠導入剤であろうと、睡眠薬であろうと主成分はほとんど同じもの(ベンゾジアゼピン)です。
この主成分をちょいとばかりアレンジすることによって様々な睡眠薬・睡眠導入剤が作られています。基本となるベンゾジアゼピンの薬効は眠りを誘導する作用と不安を取り除く作用の二つであり、どっちの特徴が強いか弱いかによってその不眠症に処方するか、精神疾患系の病気に使用するか判断することになります。
上記の参考文献はいつもはネットのURLを記載していますが、中には悪用するやつがいるといけないので医師向けの「今日の治療薬2017年度」を参考文献としておきます。
睡眠薬と認知症の関係は無いと考え問題ありません。でも乱用した場合は別問題❗ってことをご承知おきくださいね。