最近の週刊新潮の医療系記事はトンデモ方向まっしぐらってイメージがあり、週刊現代とともに目が離せない状況になっています。こんな記事を見かけました。
この記事を書いた記者さんはモルヒネの意味を知って使っているのかなあ〜、なんて目で見ちゃうくらい新潮にからみたくてしかたない私が通ります❗
本記事の内容
新潮の間違った医学用語の使用にからみます(笑)
医療上モルヒネは癌性の痛みに対して積極的に使われるべき薬と位置付けられています。
この新潮のタイトルはモルヒネは使ってはならない薬であるとのイメージが記事内容から伝えわって来ますよね(そんなヘンテコな読み方するのはわたしだけ?)。
日本緩和医療学会の「がん性疼痛の薬物療法に関するガイドライン」には「モルヒネ」が389回登場します。
このようにがん性疼痛の強い痛みを伴う場合の対症療法としてはモルヒネ以外の選択肢はありません。実際の進行がんの治療で強い痛みを訴える患者さんに「モルヒネ系の薬を処方しますね」と伝えると「ええっ〜❗麻薬ですか」と躊躇する方も少なくありません。
癌性疼痛のコントロールの重要さをご存知の患者さんが増え、さらにMSコンチンという錠剤が保険収載されたことによって、以前ほど麻薬系に分類される痛み止めを拒否する方はかなり減っているのに、新潮の記者さんは禁じられた薬、ダメ絶対ダメ的なイメージをモルヒネにお持ちなんでしょうか?なんて疑問を感じてしまいました。
がんの痛みは精神的にも肉体的にも非常に辛いものであり、適切な薬を適切に使用することによって、痛みをコントロールするだけではなく、苦しみから解放されご自分の病気としっかり向き合うことが可能となります。どう見ても悪いイメージで「モルヒネ」をタイトルに使用しているデイリー新潮に絡みたくなる気持ちをご理解くださいね。
ポンコツ記者さんが書いたと予想される「モルヒネ注射」記事
一般的な表現方法として「カンフル注射」とか「カンフル剤」が取り敢えず元気をつける場合に以前は多用されていました。このカンフル剤はデジタル大辞泉によれば樟脳 (しょうのう) のこと。クスノキから得られるほか化学合成もされ、中枢神経興奮・局所刺激・防腐作用がある。かつては蘇生 (そせい) 薬として知られた。となっています。一般社会で使われる場合は
だめになりかけた物事を蘇生させるのに効果のある措置。カンフル剤。ですね。例として
「大幅減税が景気回復のカンフルとなる」が挙げられています。カンフルだとポンコツになりかけている私なんかには意味が良く伝わります。
ちなみに新潮の社員の平均年齢は44.0歳、ライバルとも言える文藝春秋の平均年齢は43.8歳(マイナビ等による)。週刊新潮の中学生以来の愛読者である私としては(嫌な中学生でした)、近親憎悪的にカンフルを使わないでモルヒネという言葉を使った記者さんの年齢まで気になってしまいました。
モルヒネ、懐かしいテレビドラマを思い出しました
土曜の朝っぱらにトイレでこの記事を読んだ私はついつい「コンバットかよ❗」と呟いてしました。コンバットといえば私たち世代はすぐに第二次世界大戦中の米軍の人間味あふれるテレビドラマの名作「コンバット!」を思い浮かべます。
このコンバットの中で負傷した兵隊がいると「衛生兵❗早くモルヒネを〜❗」なんて場面が多数ありました。子供心ながら「モルヒネって痛みを止めるんだろうなあ」と思いながら白黒のテレビ画面を見つめていた記憶があります。
戦争で負傷してモルヒネ等の中毒になった兵隊さんはいることはいるでしょう。しかし、それは戦争という異常な状況での使用であり、近年の戦争では兵隊さんのやる気モードを麻薬の使用によって減弱させる目的で、敵側が非医療目的使用を蔓延させるための作戦でもあったとの話もあります(ベトナムやアフガニスタンなど)。
モルヒネってなんだ?
ところでモルヒネ自体を知らない方に念のため説明しておきますね。手元に学生時代に購入した「薬理学」(伊藤宏著)があります。そこには麻薬性鎮痛薬という項目があり「モルヒネはアヘンから抽出されたアルカロイドの一つであり鎮痛作用を主とする」と書かれています。この教科書は初版が1959年という古い古いもので、私が持っているものが1979年に再版されたもの (この辺りが私がポンコツになりつつある所以かも)。
この時代はまだMSコンチンは販売されていなく、実際の臨床でも点滴にモルヒネを使用してはいたのですが多くの患者さんは「モルヒネですかあ❗」と、家族は「麻薬を使うなんて❗」と反応したものでした。そこでブロンプトン・カクテル(Brompton Cocktail)と呼ばれるモルヒネややアルコールを含んだ液体を飲んでがん性疼痛への対応をしていたような時代だったのです(モルヒネ=注射のイメージがあったので、服用薬だと抵抗が少なかった)。
一方で現在がん性疼痛に対して積極的に使用することが推奨されているMSコンチンはモルヒネが徐々に溶け出す仕組みになっていて、一日1回から3回の服用で痛みを抑える効果があります。がんの痛みを治療する目標としてこのようなものが一般的に医師間では考えられています。
麻薬を使うと中毒になる心配をお持ちの方へ
麻薬中毒または精神依存とは、自分で制御できずに薬を使用してしまったり、痛みがないにもかかわらず薬を使わずにいられないようになることが特徴です。これまでの研究で、医療用麻薬が医師のもとでがん患者さんに対し、痛みの治療を目的に適切に使用された場合、これらの依存症状が生じることはほとんどないと報告されています。
日本緩和医療学会緩和医療ガイドライン委員会よる患者さん向け「がんの痛みの治療ガイドライン」にはこのように書かれています。ご安心くださいね。
なぜこの記者さんは「モルヒネ注射」という言葉を使用したのか?
今まで複数回、週刊新潮の取材に応じてきた私ですが、どうも最近の新潮の医療系記事が気になっていました。
例えばこれ
そして、これも
今回取り上げた新潮の記事は全く医療モノではなく、会社経営の話なんで門外漢の私がとやかく評価するべきではないのは当然です。しかし、中学生以来40年以上読み続けてきた新潮系雑誌(今思い出した、当時ロッキード事件があってこれの詳細を知りたくて週刊新潮を読みだしたんだった)の箸の上げ下ろしまで気になってしまい、重箱の隅をつつくようなことをおとな気なくやっちまったわけです。
来週頭に締め切りがきている某医療系雑誌の原稿があるのに、なんで私は朝っぱらからこんなどうでもいいブログを書いているのだろう、と自問しております。多分、精神病理学的な不安を少なくする無意識な行動である「逃避」って状態なんでしょうねえ。そんな時こそカンフル剤を注射して(今時カンフル剤なんて薬無いよ〜だ)しっかり現実に向かわなければなりませんね。
新潮さま、ここはモルヒネ注射ではなく、カンフル注射が正しい用語だったのではないでしょうか?
読者層の多くは間違いなく「カンフル」で言わんとすることが伝わる年齢層ですから。