検査結果で陽性判定とか異常値と出ても、パニクらないための基礎知識

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検査結果が出るまでは心配ですよね。私は医師ですけど、健康診断や人間ドックの結果を待つ間はちょっとドキドキします。

しかし、なんらかの陽性判定が出ようが、異常値が出ようが、心当たりが無い場合は検査に関する基礎知識さえあればパニックになることはありません。

検査結果で陽性判定とか異常値と出てもパニックにならない為の知識

↑は私の最新の人間ドックの結果です

検査結果における陽性判定と陰性判定の信頼性

例えばなんらかの感染症に関する精度の高い検査があったとします。当院は泌尿器科を専門としていますので性病STD「Sexually Transmitted Diseases」の略)の場合を考えてみます。

尿道炎の原因となる淋菌やクラミジアの検査は以前は尿道に綿棒を突っ込んでグリグリ行なって、尿道の分泌物等を培養あるいは増幅する方法で診断をしていました。しかし、これはあまりにも非人道的と考えた研究者らの努力によって、今では尿を精密な検査をすることによって診断をしています。

全く心当たりがなく、症状も全く無い場合は尿を使ってSTDの検査は健康保険の対象にはなりません。だって、別に健康を害しているわけじゃないですからね。

この検査方法はキャリー・マリス(Kary Mullis)という変わり者の研究者が開発したものであり、この実績によって1993年にノーベル化学賞を受賞しています。

このSTDの検査は、あまりにも精度が高いために、本当は死んでしまっているクラミジアの破片さえも検出してしまいますので、感染して治療をしていたとしても陽性判定が出てしまうことがあります。

あまりにも精度が高すぎる検査は使い方が重要であり、たまたまクラミジアが付着した手を水につけて検査をしても陽性と判定される可能性さえあるのです。

血液検査の異常値は検査所や医療機関によっても違いがある

例えば高脂血症、つまり血液中のコレステロールを測定する検査でHDLコレステロールとかLDLコレステロールとの検査項目を見たことがあると思います。

HDLコレステロールを善玉コレステロール、LDLコレステロールを悪玉コレステロールと呼んで、しばしばテレビの健康関連バラエティ番組で取り上げられます。

日本人間ドッグ学会ではHDLコレステロールの正常値は40mg/dl以上、LDLコレステロールの正常値は119mg/dl以下とされています。一方で医療機関が利用する検査機関の多くはHDLコレステロールは40~70mg/dlが基準値であり、LDLコレステロールは70~140mg/dlが基準値となっていることがほとんどです。

実はコレステロールのような血液検査で一定の数字を超えたから正常ではない異常である、と考える必要はありません。本来ならば正常値・異常値という呼び方が間違いであり、本来ならば基準値というのが正しいのです。

血液検査の結果は異常値・正常値ではなく基準範囲に入っているかが重要

血液検査の基準値を決めるには基準範囲を統計学的な処理をして決められます。受験をしたことがある人なら知っている、偏差値と同じ考え方をします。

健康である人の多数のデータを元に正規分布曲線を求めて、極端に高い数値と極端に低い数値のうち2.5%を除いた曲線内に入っている数値を基準値とするのです。

この算出方法は以前は確かに正常値とか正常範囲と呼ばれていました。現在では血液検査の結果では正常値は使わないで基準値という言葉が使用されます。

簡単に言えば、5パーセントの人たちは健康であっても基準値から必ず外れるのです。

基準値を超えたから、即がんと考えることはありません

腫瘍マーカーの正しい使い方はがん治療の効果判定やがんの転移を調べることなのですが、がんを早く発見するためのツールと思い込んでいる人も少なくはありません。しかし、私が専門とする泌尿器科領域のがんである前立腺がんの腫瘍マーカーであるPSA(前立腺特異抗原、prostate-specific antigenの略)は早期発見に役立つために悩ましい問題を抱えています。

PSAは特異的と名称に付くくらいなんので前立腺以外の臓器からは検出されません。PSAは非常に鋭敏な検査方法であるために、治療する意味が無いがん細胞からも検出しますし、前立腺になんらかの炎症があった場合も高値を示しますし、前立腺の容積が大きくなっても高い値を示すことがあります。

たまたま受けた人間ドックでPSAが高値だと言っても、前立腺がんであるとは言い切れません。

PSAが高いと言われて泌尿器科を受診した場合、再度PSA検査をするとともに尿検査、エコー検査、触診を行うことが一般的です。

PSAが再度の検査でも高値であり、炎症がなく、エコーで前立腺がそれほど大きくなくても、前立腺がんと診断する泌尿器科はいないはずです。

前立腺がんはゆっくり進行する癌として知られているために、数ヶ月後の再度PSA検査をします。それでもPSAが高い場合に初めてCT検査と前立腺針生検を行い、前立腺の一部を針によって採取して、その組織を病理検査を行うことによって確定診断をします。

前立腺針生検によって得られら組織にがん細胞が含まれていない場合もあるし、実際にがんは無い場合もあります。

そのような時はある程度の期間をおきながらPSA検査を繰り返し、さらに高値であった場合は患者さんには申し訳ないのですが、再度前立腺針生検を行います。

私が言いたいことは、

  • 陽性判定されても偽陽性の場合もありますし、逆に偽陰性の場合もあります。
  • 基準値を超えていたとしても、病気とは限りません。
  • 基準値を超える検査結果が出たら再検査をすれば結果が変わることは珍しくはありません。
  • 精度が高い、敏感な検査で陽性であっても病気では無いこともあります。
  • 確定診断するには複数の検査が必要です。

以上から、一回の検査結果でパニックになる必要は無いと考えるしだいです。

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

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