男性型脱毛症治療薬は前立腺癌の死亡リスクを低下させるか?

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近年前立腺癌と診断される人が急増しています。つい最近も有名人が前立腺癌とテレビ番組中で診断されたそうですが、以前から世間一般でささやかれている風説としてハゲている人は前立腺癌になりやすいがあります。この話は一般素人さんの間だけでなく、医師、それも泌尿器科を専門としている医師館でもまことしやかに、というか経験的に知られていました。

前立腺癌はホルモン、特に男性ホルモンの影響を受けやすい癌として知られていて、実際の治療でも男性ホルモンの影響を抑えるホルモン療法が選択されること少なくありません。

ハゲている人と前立腺癌発症の関係性については、因果関係なのか相関関係なのかは研究課題の1つとして議論の余地がまだまだあります。しかし、最近かなり信頼度の高い研究として薄毛治療をしていると前立腺癌の死亡リスクが低下するという医学論文が発表されました。

ハゲていると前立腺癌になりやすい、との話は本当か?

男性の薄毛と前立腺癌の発症、そして前立腺癌の死亡リスクに関する確証はまだまだ得られていないと判断するべきですが、薄毛の治療をしていると前立腺癌で死亡する可能性が低くなる⋯つまり近年増加傾向がある前立腺癌を心配していて、薄毛(ハゲ)にお悩みの人は積極的に男性型脱毛治療薬を服用した方が良いんじゃないの、というお話をして参ります。

男性型脱毛症の治療薬はなぜ前立腺疾患に効果があるのか?

前立腺癌と診断される日本人男性が右肩上がりに増加している一番の大きな原因は高齢化とPSAと呼ばれる診断方法の普及です。

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https://www.zenritsusen.jp/epidemiology/

日本で男性型脱毛症治療薬の使用が承認されたのが2005年10月です。この薬は元々は前立腺肥大症(発症する臓器は同じでも前立腺癌とは全く別物)の治療薬として1990年代に米国で発売されていたのですが、副作用として薄毛の改善が認められました。

この男性型脱毛治療薬(ハゲと言い続けると批判を受けるので男性型脱毛症で以後話を続けます)を服用していると前立腺癌の発症が低下するとの結果が「Long-term survival of participants in the prostate cancer prevention trial.」(PMID:23944298)で報告されていました。

しかし、いくら発症のリスクを低下させたとしても、その病気が原因となって死亡することを低下させることはイコールではないのが医学の難しさです。今回の話題である男性型脱毛症治療薬を服用していると前立腺癌の死亡リスクが減少するを実証した論文は「Long-Term Effects of Finasteride on Prostate Cancer Mortality」(PMID:30673548)なのですが、詳細は一般の方は無料では見ることができないので、余計なお世話でしょうけど私が解説しますね。

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この研究は米国の55才以上の前立腺癌の無い男性18880人を対象として、片方のグループには5mgの男性型脱毛症治療薬を、もう一方のグループにはプラセボを長期に渡って服用してもらいました(最長は7年間)。前立腺癌は男性が罹患する可能性がもっとも高い癌の1つなので、当然両者ともに研究参加中に前立腺癌と診断された人も出ています。

前掲の男性型脱毛症治療薬を服用していると前立腺癌になりにくいとの論文と同じように、治療薬を服用しているグループの方が前立腺癌発症リスクは25パーセント低下していました。

ここからが今回取り上げた論文の重要なポイントなのですが男性型脱毛症治療薬を飲んでいると悪性度の高い前立腺癌になりやすかったとの「ありゃりゃ、逆じゃん」的結果が得られているのです。

いくら前立腺癌の発症を抑える効果が高くても、死亡リスクを下げることを意味するわけではない、と先ほど述べましたが、発症リスクが低くなっても、悪性度の高い癌になってしまったら困ります。

男性型脱毛症を治療することは前立腺癌を予防して死亡率も下げる

発症リスクが下がる、このことは一瞬死亡リスクも下がるような気がしますが、今回取り上げた2つの医学論文では男性型脱毛症治療薬は発症リスクを下げることができても、転移のしやすい悪性度の高い癌発症リスクが高くなることが統計学的な処理によって判明しています。

そこで「Long-Term Effects of Finasteride on Prostate Cancer Mortality」の研究者らは悪性度の高い前立腺癌だと本当に死亡リスクが高くなるのか、という素朴な疑問を解決しようと試みたようです(医学研究者は常に過去の研究を疑っているんですよ)。その結果として男性型脱毛症治療薬を服用していると、悪性度が高くても死亡リスクに差がなかったという、なんだかわけのわからない結論に至っています。

このなんじゃこりゃ的な話は男性型脱毛症治療薬は前立腺癌の発症リスクを抑えたとしても、万が一前立腺癌が見つかった時は悪性度の高いものになっていることが多く、FDAが注意喚起をしていることに対する反証の意味もあります。

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https://www.fda.gov/Drugs/DrugSafety/ucm258314.htm

前立腺癌はなりたくないし、頭髪に問題を抱えている男性の選択肢はこれかなあ⋯

男性型脱毛症治療薬を飲んでいると前立腺癌になるリスクが低下することは多くの研究によって強く支持されています。しかし、男性型脱毛症治療薬を服用していると、前立腺癌が発見された時には悪性度の高いものである可能性が出てきます。今回の論文によれば悪性度が高くても死亡リスクには影響しない、となるという複雑怪奇な傾向も出てきています。

これはあくまで私の個人的な見解なのですが、男性型脱毛症治療薬は前立腺癌の発症リスクを抑え、万が一前立腺癌と診断され、その病理検査の結果によって悪性度が高いと診断されても、死亡リスクは低下する、故に前立腺癌はなりたくないし、前立腺癌が原因で死にたくない、ついでに頭髪に悩みを抱えている場合は積極的に男性型脱毛症治療薬を服用することも今後は検討しても良いのではないでしょうか?

ここで取り上げた男性型脱毛症治療薬はフィナステリド(日本での商品名は各自で調べてね)です。このフィナステリドは残念ながら日本では前立腺関連の治療薬としては承認されていませんし、もちろん保険診療の対象ともなっていないことにご注意ください。

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

桑満おさむ医師のプロフィール詳細

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