「がん」と「癌」を意識して使い分けてきましたが、今まで信じ込んでいた病名がいきなり変更していた、という驚愕の事実に平成の終わりに気が付いてしいまいました。
信じ込んでいた天動説が間違いであり、実は地動説が当方が知らぬ間に世間一般の常識となっていたかのようなショックを受けています。
「癌」と「がん」そして「ガン」の違いを理解して使用していたつもりが、いつの間にやら「がん」と表記されるべき病名が「癌」になっていたのです。
医師は「がん」と「癌」を微妙に使い分けてきた
がんは悪性腫瘍を示す医学用語兼一般の言葉。しかし、医師は今まで「がん」と「癌」を微妙に使い分けていました。
ちなみに医師が悪性腫瘍を指す言葉である「癌」や「がん」をカタカナの「ガン」と表記することはありませんので、漢字の「癌」と平仮名を使用する「がん」の違いに関しては以下のような解釈が少なくとも私が医師になって数十年間使用され続けられていたはずです。
漢字の「癌」は人間の体の外部と繋がっている箇所にできる悪性腫瘍に使用され、例えば肺癌や胃癌や大腸癌に使用されていました(正確には上皮の細胞から発生する悪性腫瘍)。一方で平仮名の「がん」には白血病や悪性リンパ腫などの外部とは直接繋がっていない、病理学的は上皮以外から発生する悪性腫瘍に使用されていたのです。
この法則からいえば前立腺にできる悪性腫瘍は「前立腺がん」が正しく、「前立腺癌」と書くのは間違いということになります。癌は外と繋がっている部位にできる悪性腫瘍、がんは外部と繋がっていない部位にできる悪性腫瘍という考え方で区別して使用していたつもりなんですが⋯。
私の専門分野である泌尿器科ではなんと2006年は「前立腺癌診療ガイドライン」そして2016年の時点では「前立腺癌ガイドライン」が発行されていたのに、2018年には「前立腺がん検診ガイドライン」が発行されています。たった2年の間に人体の解剖学的な位置付けが変わるほど人類が進化したはずもありませんよねえ。
果たして「癌」と「がん」を使い分ける必要があるのか、なんてことを最近考え出してしまいました。
日本の代表的な悪性腫瘍治療専門医療機関はなぜか平仮名の「がん」を使用
日本におけるがん治療のナショナルセンターとも言える「国立研究開発法人国立がん研究センター」は以前から「がん」と平仮名を使用しています。一方でプロ受けする癌研究会付属病院は今ではがん研究会有明病院と平仮名明記にいつの間にやら変更されています。
私の所属する日本泌尿器科学会がいつの間にやら「前立腺癌」を「前立腺がん」と表記するようになったのか、明らかな推移時期は手元にある資料からは不明です。だって日本泌尿器科学会の総会賞を受賞したものでさえ「癌」と「がん」がごっちゃに使用されているんですから。
病名には「前立腺癌」そして「抗がん剤耐性」って記載されているよねえ。さらに腎臓にできるがんに関しては「腎がん」と平仮名表記されていますが、ところがどっこい「腎がん」のガイドラインは2017年では「腎癌診療ガイドライン」となっています。
「がん」と「癌」の使い分けの1つの原則である外部と繋がっているかいないか、で判定した場合に腎臓の中は尿道、膀胱、尿管を通じて外部と繋がっていない訳ではありません。となると「腎癌」が正しい表記となるはず。
もう一度確認します。
外部と繋がっている上皮にできる悪性腫瘍を漢字で「癌」と書いて、繋がっていないところにできる悪性腫瘍を「がん」と平仮名で表記する慣習というかルールがあったことは間違いがありません。
例えば近年ワクチンの件で話題になっている子宮頸部にできる悪性腫瘍である「しきゅうけいがん」の場合、日本婦人科腫瘍学会は「子宮頸癌」と漢字を使用していますが、厚生労働省は「子宮頸がん」と平仮名を使用しています。
「癌」と「がん」の使い分け、これは文部科学省マターなのか?
悪性腫瘍を表す「癌」という漢字は常用漢字にはなぜか含まれていません。あまり使われない漢字なんで、私は「癌」と「がん」の使い分けなんていちいち意識しないで「がん」と平仮名表記にしちゃえばいいのでは、なんて考えております。
医学系学会の総まとめ的な日本医学会のサイトでこんなのを見つけました。
「癌」でも「がん」でもどっちでもいいんじゃないの、と普段から定義に煩ぶっている私は考えています。でもやっぱり「がん」って平仮名を使っちゃうんだよなあ⋯。