病気で受診しても自分の病状が医者に上手く伝わらない。医師の方もこの患者さんがどんな病状であるか汲み取りにくい。この2つが患者さん側は医師への不信感につながり、医師側は確定診断にたどり着きにくい原因になっています。
かかりつけの医師と意思の疎通が上手くいかない原因は2つ⁉
世間一般的に医師はメディアの批判の対象になりやすく、中にはいい加減な情報を振りまきさらなる医師不信・医療不信に油を注いでいるメディアさえあります。もちろん医師サイドもなぜ批判されるのかを日々の診療での出来事を振り返る必要があります。
メディカルトリビューン(Medical Tribune)という医師向けの新聞形式の情報誌があります。先日、これは参考になるかもと感じた記事が2つありました。
薬を飲むことによって、ありえない副作用が出ることがあるとの記事と患者さんは医師に隠し事をする傾向があるという医師も患者さんも注意すればより良い医療ができるのではないか、なんてちょっと生意気なことを考えてしまいました。
この2つを抑えておけば、医師としても患者さんとしてもいいことだらけなんじゃないかなあ。
薬のノセボ効果という厄介の現象
プラセボ効果(偽薬効果)は割と多くの人が知っていると思います。その反対の効果である、ありえない副作用が薬を飲むことによって生じる現象をノセボ効果と呼びます。
全く薬効のない砂糖玉を「これは血圧を下げる薬ですよ」と患者さんに飲んでもらうと、あら不思議、血圧が下がるではないですか❗
このような全く効果のないことがわかりきっている偽薬と本当に薬効がある可能性が高い物質を2つのグループに分けて、本当にその薬効があるかもしれない物質は薬となりえるかを実験するのが治験と呼ばれるものです。
偽薬をどうしても薬を飲みたがる人向けにこのような商品も販売されています(薬では無いことに注意を)。
世の中に出回って、薬として販売あるいは処方できるものはこのような治験を必ず経ています(漢方薬のいくつかは事前に治験が行われていないことは今回は見て見ぬ振りしてくださいね)。
逆に砂糖玉を服用した場合にありえない副作用を患者さんが訴えることがあります。科学的にはその副作用の機序が説明できない現象をノセボ効果(nosebo effect)と呼んでいます。このノセボ効果は薬の効果を判定する時に、そこから得られた結果を左右することが問題視されています。
「Rapid overview of systematic reviews of nocebo effects reported by patients taking placebos in clinical trials」(PMID: 30526685)によればノセボ効果に関する多数の論文の中からノセボ(nocebo)とシステマチックレビュー(systematic)とのキーワードで抽出した医学論文を解析したところ プラセボ(偽薬を投与された)グループの半数が有害事象を経験していました。
薬の効果を治験によって確認する途上でこのような不思議な現象が現れることは、本当に効果があると考えられている薬が世の中に流通する上で邪魔をする可能性があります。
薬として承認認可されたものを処方されているはずなのに、あり得ない副作用(上記論文中では有害事象)が出てしまった時に多くの医師はそんな副作用は添付文書に書かれていないので、気のせいですで処理しているのではないでしょうか。
そんな一言が患者さんが医師に不信感を抱くのです❗
ノセボ効果の説明としてはたまたま副作用が偽薬とは関係なく生じた、あるいは、偽薬なのに事前にある効果があると説明されたために、そのような効果がある場合はどのような副作用が生じるかを患者さんが調べたことによってあり得ない副作用が出たような気になってしまった、とされています。
でもねえ、実際の診療で薬を処方した場合、どう考えてもあり得ない副作用を訴える患者さんに「たまたまです」「そんな副作用はどこにも書かれていません」って伝えるても納得してもらえるでしょうか?なんか良い説明方法はないかと日々模索している町医者人生22年の私です。
患者さんは全てを医師に伝えない?
もう1つ、医師と患者さんの関係を悪化させる問題がメディカルトリビューンに掲載されていました。患者さんの60ー80パーセントは医師に自分の健康の情報を十分に伝えていない、という医師にとってもマイナス、治療を受ける患者さんにとってもマイナスなことが、なぜか生じているのです。
「Prevalence of and Factors Associated With Patient Nondisclosure of Medically Relevant Information to Clinicians」(JAMA Network OPEN)によれば
重要な医学的な情報が医師に伝わっていない
という大問題が報告されています。この医学論文の内容はあらためてブログにする必要があるくらい医師が気をつけなければいけないことが多数書かれており、どのような方法で患者さんが隠し事をしないようにすれば良いのかについて、
医師は頭から血の汗が出るくらい考える必要があります❗
患者さんが隠すこととして、薬物使用(この論文は米国のもの)、代替医療を行なっていること、医師の治療方針に同意していない、医師の説明を十分理解できていない、など7つが挙げられています。
これらについてなんで患者さんは医師に隠したのかの原因として、「説教されたくない」「医師に理解度が低い患者だと思われたくない」などが考えられています。
患者さんが医師に隠し事をする理由の多くは医師の態度にある
とも解釈できます。
この論文を読んで冷や汗タラタラ、脂汗ギトギトの私です。今まで診察させていただいた患者さんにお詫びするとともに、心から反省していることの証として、この衝撃的な論文をなんども読み返して再度ブログで詳細に検討をさせていただく所存です。