海外の健康情報をそのまま翻訳して「がんのリスクを下げます❗」は信頼度が高いのか?

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海外でも医師をはじめとした医療関係者向けでなく、一般の方向けの健康情報サイトが人気らしいです。おしゃれな海外の健康情報を日本語に翻訳して、ちょっとした工夫でがん予防とか高血圧等の生活習慣病を改善、なんて記事はたぶん日頃から健康に注意をしている人々の注目を集めているのではないでしょうか?いくら翻訳が堪能なライターさんが元ネタを日本語に翻訳しても、その記事の真偽までは調べることは稀だと勝手に推測します。

日本語訳された健康関連記事を元の英文で確認する暇のない方、健康に良い働きをする成分を含む食材が本当に効果があり、さらにはがんを予防するのかまでを調べるのが面倒な人向けに、私が誰に頼まれたワケでもないですが、余計なお世話でしょうけどお手伝いいたしますね。

英文から日本語に訳された健康情報「芽キャベツはがんのリスクを下げる」これって本当⁉

今回はMY LOHASというウェブサイトの「高タンパク質で、がんリスクを下げる成分も。芽キャベツをおいしく食べるワザって?」(https://www.mylohas.net/2019/01/182533brusselssprouts.html)をお借りして、本当に芽キャベツはがんリスクを下げる成分が入っていて、この調理方法でがんリスクを下げる成分は十分に含まれるのかを検証してみます。

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うわっ、こんな芽キャベツもあるんですね。

芽キャベツに含まれるグルコシノレートはがんのリスクを下げない❗

芽キャベツが健康に良さそうなのは、感覚的に理解できます。しかし、あの苦味が苦手な人は多いんじゃないかなあ。実は芽キャベツの苦味の元となっている成分であるグルコシノレートががんの予防になり、さらには発症したがんに対しても治療効果があることのではないかとの話があることは事実です。

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しかし、残念ながら手元にある「健康食品・サプリメント[成分]のすべて2017」(総監修 日本医師会・日本薬剤師会・日本歯科医師会)の「芽キャベツ」の説明としては有効性は科学的データが不十分と判断されています。肺がん・心疾患・前立腺肥大症・膀胱がん・乳がん・糖尿病などなど、がんをはじめ生活習慣病に効果があるとされている芽キャベツですが、科学的データが不十分なのです。

となると英語記事preventionの「Shaved Brussels Sprout Salad with Hazelnuts, Broiled Lemon, and Pecorino」は芽キャベツの間違った健康情報を報じていることになります。

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https://www.prevention.com/food-nutrition/recipes/a24745075/shaved-brussels-sprouts-salad-recipe/

原文ではタイトルには芽キャベツのがんリスクを下げる効果の記載はなく、「Brussels sprouts are nutritional superstars on their own, thanks to glucosinolates—compounds linked to lowering cancer risk.」と本文中に述べられています。日本より海外の方が不確かなウェブ上の健康情報サイトには厳しいのかもしれませんね。

信頼度の高い医学研究では、芽キャベツのグルコシノレートはがん予防効果なし、との結果が多数あります

芽キャベツはアブラナ科の植物です。同じようにがんリスクを下げる効果の成分グルコシノレートを含む食材にブロッコリーがあります。

信頼度の高いメタ解析を使った研究では、ブロッコリーに含まれるグルコシノレートは大腸がんの発症リスクは下げていないことが明らかになっています(「Cruciferous vegetables and risk of colorectal neoplasms: a systematic review and meta-analysis.」(PMID: 24341734 )。

実験レベルでのグルコシノレートのがんに対する効果に関する論文もあります。「Enhancement of broccoli indole glucosinolates by methyl jasmonate treatment and effects on prostate carcinogenesis」(PMID: 24983303)ではマウスを使った実験でやはり試験管レベルであってもグルコシノレートは前立腺がんの発症リスクを減少させることはできていません。

芽キャベツに含まれるグルコシノレートは、現時点ではがんの予防効果は有効性を強く支持する裏付けとなる医学論文、特に臨床的な論文は無いようです。

グルコシノレートがんのリスクを下げる、とpreventionを日本語に翻訳したMY LOHASではなっていますが、英文は慎重に「compounds linked to lowering cancer risk」と書いており、がんリスクの低下に関連する化合物であるグルコシノレート、と記載していることに注意が必要かもしれません。芽キャベツとがんとの関係は、もしも相関関係があっても原因と結果では無い点に注意が必要です。

芽キャベツは妊婦さんが食べ過ぎると危険、との論文もあります

前掲の「健康食品・サプリメント[成分]のすべて2017」の芽キャベツの説明として、芽キャベツを食べると腸内ガスを引き起こすことがある、と書かれています。

さらに授乳中のお母さんがキャベツを食べると、母乳を飲んだ赤ちゃんがお腹の痛み発作を起こすことが多くなることを報告した「Maternal intake of cruciferous vegetables and other foods and colic symptoms in exclusively breast-fed infants.」(PMID: 8537569)という医学論文も見つかりました。

がん予防に効果がある、あるいは生活習慣病を治そうと芽キャベツを食べる場合、この有害性はあまり考えないでも良いと判断していただいても問題はないかと。

一方で芽キャベツをやたらめったら食べてはダメ、と考えられている病気もあります。過敏性腸症候群(IBS)が持病の人は芽キャベツを食べると症状が悪化する可能性があります。「Irritable bowel syndrome and diet(PMID: 28110300)によれば過敏性腸症候群(Irritable bowel syndrome頭文字をとってIBS)の患者さんが芽キャベツを食べると、腸内ガスが発生するために症状を悪化させることがあ流、と記載されています。

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がんのリスクを下げようと思って芽キャベツを食べることを手放しで推奨してしまうのは、健康関連記事としては、如何なものかと思ってしまいました。

ウェブ上の健康情報は鵜呑みにしないことが重要です

日本でも海外でも健康に関する情報をネットで検索する人が多いですし、健康情報関連サイトを読んでいる人も多いと思います。

そこに書かれている情報、特にがんに関する健康法の一つとしての食事法や食材は誰でもが気になるはずです。しかし、毎日のようにネット上に溢れかえる健康情報を鵜呑みにしてよいのでしょうか?

私は医師という職業柄、毎朝健康に関する情報をネットでチェックしています。題材として取り上げさせていただいた「MY LOHAS」も毎朝SmartNews(スマートニュース)で流し読みして、気になる記事はオリジナルサイトでチェックしています。

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せっかく役に立つ情報も含まれているのですから、編集者の方はできれば英文を翻訳するだけではなく内容を精査していただければ正しい医学情報を多くの人に伝えることができると考えます。

元記事をチェックして、そこに書かれている健康関連情報の真偽を確認する作業なんて一般の人はやらないですよね。今回たまたま目にしたマイロハスの短い健康関連情報ですが、詳細に調べてみるとその情報は医学的には支持されません。

雑誌レベルの一般向け医学関連・健康関連情報と言えども、日本語に翻訳したあとで医療関係者のチェックが必要だと強く感じてしまう昨今のウェブ上の健康情報です。

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

桑満おさむ医師のプロフィール詳細

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