熊本市議会の緒方夕佳議員がのど飴を口に含んで質疑をしたことがきっかけとなり、市議会が紛糾したことは記憶に新しいと思います。
まあ、議会と市議との間には以前から色々とお互いに思うところあったようなので、その問題には触れません。
本記事の内容
のど飴を舐めながら登壇・・ところで「のど飴」って本当に咳を止めるの?
今回、この報道を読んで医師としてのど飴って本当に咳止め効果があるの⁉というあくまでも医学的な見地に立った素朴な疑問が湧いてきました。
のど飴を舐めることによって口腔内や喉に湿り気を与えることによって、上気道の感染を防ぐ効果はありそうです。また、のど飴の成分によっては直接咳を止める作用があるのかもしれません。
実は以前は風邪で医療機関を受診するとSPトローチなどの、舐める薬が処方されてたものでした。しかし、のど飴的な作用を期待されるSPトローチの本来の効能・効果つまり適応症は咽頭炎・口腔創傷の感染予防・口内炎・抜歯創の感染予防・扁桃炎であり、風邪に伴う咳止めの効果は期待できません。
SPトローチを処方する医師は最近見かけなくなりましたが、平成30年以降も薬価収載はされているので保険処方が可能のようです(私もここ数十年は処方した記憶なし)。
市議が口に含んでいたのど飴は多分この医療機関で処方されるSPトローチではないと予想されます(処方薬であったら、まず間違いなく薬服用中と申し出たでしょうから)。となると、一般的に「のど飴」と称される商品の咳に対する効果効能が気になるところです。
単純に「のど飴」で検索して上位表示された浅田飴等の効果効能について調べてみました。
せき・こえ・のどに浅田飴、と言っても多くの商品が販売されています
のど飴と聞いて多くの方がイメージするのが「せき・こえ・のどに浅田飴」の浅田飴ではないでしょうか?
浅田飴のウェブサイトによれば
浅田飴は指定第2類医薬品に分類されますので、薬です
今では多種多様なラインナップが出ています。この浅田飴が薬である所以としては4種類の生薬エキスが配合されている点です。
生薬はキキョウ根エキス・トコンエキス・マオウエキス・ニンジンエキスでそれぞれが、たんを切る・気道粘液分泌促進・気管支拡張・去痰作用を受け持っています。
ということですから、市議が口に含んでいたのが浅田飴であったらご本人がおっしゃるような「質疑中に咳をするといけないから」的な理由は正当化されます。
緒方夕佳市議が舐めていたのは龍角散のど飴でした、果たして咳止め効果はあるのか?
市販の咳止めといえば「ゴホンといえば龍角散」ですよね。いくつかの報道によると緒方夕佳市議会議員が口に含んでいた(口に咥えていた、との記載の記事もあり)のは龍角散のど飴、とのこと。(ハフポスト「のど飴」で怒号が飛ぶ熊本市議会 イギリスでは、咳き込むメイ首相がのど飴をもらってた)
龍角散の「喉のお薬 医薬品」も豊富なラインナップを取り揃えています。しかし、
緒方夕佳市議が舐めていた龍角散のど飴は食品であって薬じゃないぞ❗
という嫌な事実を見つけてしまいました。
そうなると食品に分類される「のど飴」が咳止め効果あるいは咳が出るのを予防する効果があるのかが気になってきます。
のど飴を舐めると咳は止まるか、咳予防効果はあるか?
医薬品に分類されるのど飴にはたしかに咳止め効果があると判断して問題なさそうです(エフェドリンを含むマオウが入っていますから間違いない(そのほかの効果に関しては今回はパス)。
なんとなく喉がカラカラする、いがらっぽい時に別に医薬品じゃなくても飴玉を舐める方も多いでしょう。しかし、医薬成分が含まれていない食品の飴玉・のど飴が果たして咳止め効果あるいは咳予防効果があるのか、これちょっと疑問があります。
咳が出るのは異物に対する人間に備わった自然の仕組みなので、空咳以外は積極的に咳は止めない方が良いと判断する医師も少なくないはずです。
異物が入り込むと、まず咽頭や気管、気管支など気道の粘膜表面にあるセンサー(咳受容体)が感じ取ります。その刺激が脳にある咳中枢に伝わると、横隔膜や肋間膜などの呼吸筋(呼吸をおこなう筋肉)に指令が送られ、咳(せき)が起こります。この反射運動を「咳反射」といいます。咳(せき)にはまた、気道にたまった痰を外に排出する役割もあります。
第一三共ヘルスケア「咳(せき)の原因」より 非常に申し上げにくいことなんですけど、
飴を舐めることによって咳を止める、あるいは咳予防効果はあまり期待できない
と感じたのは私だけでしょうか?
こんな調査結果があります⋯「のどの乾燥対策」にのど飴は効果的?
https://www.sbfield.co.jp/press/20171110-12015/より ここから読み取れるのは
喉の乾燥にのど飴は効果的である、と一般人の65パーセントが考えている
ことであり
食品に分類されるのど飴に咳を止める、あるいは咳予防効果は無し
なんじゃないのかなあ。
ちなみにこのデータの取材に協力したのはカンロ株式会社。のど飴でカンロを思い浮かべる方も多いとは思いますけど、残念ながらカンロは食品会社なので医薬品は販売しておりません。というか病状に対して効果効能のあることを表記することはかなりリスキーなので本当は「咳止め効果あるよ❗」と伝えたかったのかもしれません。
「のどあめは医療行為」と熊本市議会に市民団体が抗議⋯これちょっとねえ
ここから下は某市民団体の方には読んでほしくないので、団体関係者の閲覧はご遠慮くださいませ。こんな報道もありました。
医師法および薬機法にしたがって考えた場合、医薬成分を含むのど飴を口に含むことは明らかに医療行為というか、治療行為だと考えます。しかし、食品に分類されるのど飴を口に含んでいる場合にその行為を医療行為と呼べるのでしょうか?
食品等を摂取することが医療行為だとすると、健康食品を使った代替医療や民間医療も医療行為となるわけで、そうなると医療行為を行ってよろしいと国からお免状をいただいた者以外がそれらしきことをしているのは医療行為であり、医師法に違反する可能性が大となってしまいます。もちろん、自分で自分のことを民間療法であろうが、ニセ医学であろうが治療することを罰する規則はありません。
まあ、のど飴ごときで議会を止めてしまうオッサン議員さんたちの行為もどうかとは思いますけど、緒方市議も「風邪で咳が気になるので」なんて感じで事前にのど飴をくわえていることを事前に伝えれば良かったのかも(意地悪でいつかからんでやろうと思った議員はそれに対しても難癖をつける可能性も否めませんね)。
のど飴を舐めることによって上気道の潤いを保つことは風邪の予防効果はあると考えます。しかし、医薬品に分類されないのど飴が果たして咳を止める、あるいは咳が出ることを予防するのかについては疑問が残ります。
ちなみに診療中に風邪の患者さんがのど飴を舐めていても別になんとも思いませんが、風邪気味の医師がのど飴を舐めていたら多分クチコミサイトに悪口投稿されます。