小林よしのり氏の「女性医師の外科手術はいやだ」発言批判に対する反論、ちょっと事実誤認ではありませんか?

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おぼっちゃまくんは全巻持っていますし、差別問題に関する小林よしのり氏の漫画には「なるほど、そうだよなあ。優しい気持ち持っている人なんだよなあ」と感じていた時期もありました。

ここ数年というか数十年小林よしのり氏の発言を雑誌やネット上で見かけて「おお、そうだよな」と感じる時もありましたし「それはちょっとねえ」と思ってしまうこともありました。

小林よしのり氏の「女性外科医はいやだ」関連発言は医療制度等に関しての発言ではなかったと思います。

しかし、週刊現代の「命にかかわる、新聞がなんと言おうと女性医師の手術はいやだ」のコメントに関しては100パーセント同意できません。そのため、私は次の記事を投稿しました。

週刊現代「女性医師の手術はいやだ」に対してエビデンスつけて反論します!

週刊現代「女性医師の手術はいやだ」に対してエビデンスつけて反論します!

この私のブログを参考にした中村幸嗣医師のブログをお読みになった小林よしのり氏の記事がBLOGOS(2022年5月末でサービス終了)に掲載され、意味合い的には中村医師への反論とも受け止められるような書き出しになっています。

小林氏の反論はそれなりに支持されている様子がSNS上では見られます。そして日本の医療の方が欧州の医療システムよりユーザビリティが高いとの前提で話が進められています。でも、この前提にかなり間違いというか誤認識があるのです。

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中村幸嗣医師のブログ

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小林よしのり氏の記事 (https://blogos.com/article/325410/)

私は小林氏の「女性医師の手術はいやだ」におけるこの発言を批判しました

しかし、週刊現代中では小林よしのり氏の発言中には日本の医療制度に関連する発言があったとしても、私が問題としたのは次の発言です。

手術を受ける患者の立場になれば、女性より男性の医師が安心だという感情は誰にでもあると思います

であり

なぜ女医の外科手術に不安を覚えるかというと、身体的特徴があるからです。何時間もかかる手術の間は立ちっぱなしで、集中を維持しなといけない

そしてそれに続く

生理中だったり、妊娠中だったりしたらどうなるか

⋯男性医師だってアル中やニコチン中毒、借金問題や離婚問題を抱えていることだってありますけどねえ。そして締めの言葉的な

彼女たちも身体的に不利だから、外科医を目指さないわけでしょう

です。身体的に不利とは具体的にどんな点なのでしょうか?

これらの発言は全く小林よしのり氏の思い込みであり、根拠となるようなデータや論文はありません。ただの嗜好とか選り好みとも言えなくはないですよね。

私は世間一般で言われるフェミでもありませんし、スタッフからは院長は女性心理がわかっていないとしばしば言われています。

小林よしのり氏は男尊女卑が激しいと言われている福岡市のご出身ですが、私は福岡より男尊女卑が激しいのではと言われることもある熊本をルーツとしています。

私はデータというか根拠(エビデンス)に基づいて前掲のブログにて女性外科医が男性外科医より劣っていると考えるのは感情論、思いつきであると指摘したのです。

中村医師のブログを受けて小林よしのり氏はは「欧州の医療システムは導入できない」をBLOGOS誌上に投稿されました。このブログに書かれている欧州の医療システムが小林よしのり氏の勘違いあるいは資料の誤読であるとツイッター上で指摘しました。

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https://twitter.com/kuwamitsuosamu/status/1041617415463886848

小林よしのり氏のこの記事のどこが変だと感じたのかをブログとさせていただきます

小林よしのり氏は「欧州の医療システムは導入できない」でこのように述べています。

欧州では利用者が好きな時に、好きな町医者や大学病院を選ぶ自由はありません。セカンド・オピニオンなんて気軽に聞きに行く自由などないのです。医療センターに電話して、指定されたかかりつけ医・家庭医に、指定された日に行くしかないのだから、緊急の体調悪化の場合、治療が手遅れになるかもしれない

なんとなーく外国の医療システムってこうなっているんだよねえと思わせる一文ですが、これは明らかに誤認です。

まず欧州とざっくりひとまとめにしていますが、欧州と呼ばれる国々は50カ国以上あります。一般的にヨーロッパといって思い浮かべる国は英国・フランス・ドイツ・イタリアあたりではないでしょうか?

これらの国だけでも税制も違っていますし、保険医療を含む社会保険システムも違っています。英国等の国は日本と同じレベルの医療を提供していると考えて差し支えないはずです。では各国の医療制度を簡単に説明します。

英国:国民保健サービス(NHS)と呼ばれる医療制度が基本です。これを利用すれば原則自己負担なしで医療を受けることができますが、残念ながら小林氏の指摘するように気軽にいつでも受診できるわけではありません。しかし、別にプライベート医療サービスもあり、この場合は希望する医療機関を受診でき、待ち時間もNHSと違ってあまり待たされません。自己負担ですが、個人的に保険会社と契約を結んでいると医療費は保険でカバーされます。しかし、緊急を有する病状であれば、NHS未加入であってもNHSシステムに組み込まれている医療機関を受診できます。

フランス:自由と平等の国、フランスの医療制度はかなり複雑ですが、治療が必要と考えらえる場合は重症度に関わらず、医療機関を受診することができます。緊急性のない場合は小林氏が指摘されているように直ぐに好きな医療機関を受診できるわけではないのですが、私が尋ねたフランス人やフランス在住の日本人によれは「いろんな事情があるんだよねえ」との不明朗な回答でした。

ドイツ:大学病院は普通の患者さんは一切診察しないで緊急性のある症例に限って受け入れています。一般の医療機関を受診するときは予約制が主ですが、ドイツ人の友人に尋ねたところ、英国のようにここの地域の人はこのクリニックしか受診できないわけではありません。

イタリア:イタリアは国の財政問題等を抱えているためか、医療費は日本のような国民保険でカバーできる人と保険医療はできないいわゆる自由診療が混在しています。また公的病院に勤めながら医師が個人でクリニックを開業している例も多く、この場合は予約制のためにあまり待たされないとのことです(ご両親がイタリア人の友人談)。

このように欧州と言っても国々によって医療機関のシステムは大きく違っています。小林さんが書かれている欧州の医療とはちょっと違っているのではないでしょうか?(欧州の医療システムに関しては月刊「診療研究」海外レポートや日本医師会雑誌の切り抜き、外務省及びウィキ等の内容を私なりに整理しました。)

また「セカンド・オピニオンなんか気軽に聞きに行く自由などないのです」と書かれています。小林さんの言うところのセカンド・オピニオンってドクターショッピングのことなんじゃないでしょうか?日本でもセカンド・オピニオンを受け入れている医療機関の多くは予約制で直ぐに相談できるわけではないでし、相談料は100パーセント自己負担と定められています。

タイトルにあるように欧州の医療システムは導入できない、はそれぞれの国の事情があるので間違いでないでしょう。しかし、海外の医療システムはこんな風になっている、ということ前提に論じていますがその前提が間違っていたら素晴らしいご意見も台無しになってしまいます。

小林よしのり氏の最後の言葉をどう受け止めるか?

今回取り上げたBLOGOSの最後に

日本の医療に関しては、男女平等なんかより、もっと重要な問題があるはずです。

と書かれていますが、「男女平等なんかより」以下の文章は医師全員が納得するはずです。世界と比較して気軽にいつでも受診でき、それが国民皆保険制度によって自己負担が少なく世界レベル、あるいは世界でも何番目かに位置するであろう医療機器による検査が受けられ、さらに苦情も他のサービス業と言われる業種よりダントツに多いのが日本の医療システムです。医師の長時間労働、医師のサービス残業、患者さんの過大な期待に押しつぶされる医師も少なからずいます。これは男女ともに抱えている問題です。

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医療系に対する悪質なクレームがダントツです。小林さんは男女平等よりもっと重要な問題があるはず、とご指摘になっています。男女平等より命に関わる問題だからと言って今そこにある問題は解決するのでしょうか?

今回の週刊現代誌上における小林よしのりさんの発言は本当に伝えたいことは端折られれているのかもしれません。しかし、今現在日本が面している大きな問題の一つとして医療を取り上げてくれて話題になり、様々な議論がなされることは大歓迎です。しかし、医療に携わるものとして、医師の半数が女性医師になる時代は目前ですから、この問題に優先順位はつけられなくは無いと考えます。

まずは、今働いている外科系の女性医師がより働きやすい環境整備、そうすれば男性医師と技術的に差がない、あるいは優れている女性医師がさらに活躍できるはずです。

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

桑満おさむ医師のプロフィール詳細

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