病院の待ち時間にブチギレた伊集院静さんの記事をよーく考えて見た?

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安定的に医療を批判している週刊現代です。

伊集院静さんが週刊現代8月11日号「それがどうした」でご自身が慈恵医大の眼科を受診した時に二時間近く待たされたことに対して、誌上でメチャ怒っておりました。

以前から世の中では医療機関の待ち時間についても問題点が指摘されていて、それへの対応策を全く講じていないわけでは無いのに、どうして待ち時間は解消しないのでしょうか?

病院はサービス業の意識ゼロ、と週刊現代と伊集院静さんが怒っているけど⋯

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厚生労働省 「病院の種類別にみた外来患者の待ち時間」より

現在使われている医療機関の待ち時間を短縮する方法は私としては一長一短であり、医療サイドも患者さん側もぜひ一考頂けると幸いに存じます。どうしても待ち時間を無くしたい、との方は予約料を払う、という方法もあります。この予約料の扱いがこりゃまた医療機関側も患者さん側も間違って解釈しているようなのでその辺りも解説してまいりますね。

個人的には「医療はサービス業だ❗」って言われると、なんとなくカチンとくる私

でもサービス業に学ぶ点は数多くあると思って試行錯誤はしています。サービス業だというならマクドナルドから始まり超高級フレンチもあるワケですし、日本の医療制度だってある程度の工夫は行われています。例えば次に述べる「予約料制度」、これって意外と知られていないのではないでしょうかか?

どうしても待ちたく無い患者さんは予約料を支払ったらいかがでしょうか?

日本の医療水準というか医療技術レベルは世界的にトップであるとか、そんなことないよ、とかは別問題として

誰でもどこでも一定レベルの医療を低料金で受けられる国民皆保険制度に支えられている

ことは世界的にみても素晴らしい(素晴らしいから優れているとは限らないのが、これまた問題ですけど)仕組みとなっています。伊集院さんのような有名人であっても、そこらの一般庶民であっても、同じ医療費で同じ水準の医療を受けられますからね。ところがドッコイ、待ち時間を限りなく少なくする方法が存在します。それが

診察料とは別に予約料を徴収することで、待ち時間を短縮することが可能なんです

医療制度をご存知の方は保険診療と自費を合わせる混合医療は禁じられているんじゃないの?と思ったかと。実は

保険診療でも予約料を徴収することは許されています

以前から医療機関の待ち時間は問題視されていて、選定療養という特別な医療サービスが存在しているのです。予約料を徴収するに当たっては細かいルールは定められています。

●一人当たりの診察時間を10分以上とする

●予約時刻を30分以上遅れてはいけない

●予約料を徴収する医療機関は診療時間の2割りを予約患者さん向けに確保する

などなどです(詳細は厚生労働省「療担規則及び薬担規則並びに療担基準に基づき厚生労働大臣が定める掲示事項等の一部を. 改正する件」等をご覧ください)。

例えば順天堂大学医学部付属順天堂医院(一般的には順天堂の病院と呼ばれていますね)ではこのようにサイトに明記してあります。

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伊集院さんもこのシステムを利用して、それでも1時間45分も待たされたのであれば「なぜ日本の病院は、患者をこんなに待たせて平気なのか」とブチギレてもしかたないですね、というか順天堂病院が厚生労働省の定めを守っていないことになりますので通報ものです。

ここにも明記されていますが、予約料を支払いつつ医療は保険診療で受けられます。医師の間でも予約料は自費なんだから、混合医療になってしまうから診療費も全額自費だよ、と誤解釈している場合も見受けらることを書き添えておきます。

医師側にも、もちろん問題はあります

待たせることをなんとも思わない医師も少ながらず存在することは否定しません。私も大学病院や公的病院に勤務していた時は9時から診療開始なのに、9時に診察室に向かってお茶を一杯飲みながら看護師さんたちと雑談をして「さあ、ボチボチ外来開始しようかねえ」的に外来をこなしていました。

しかし、患者さんが溜まってくると「お腹が空いたからとっとと外来をこなさなきゃ」って感じで、飛ばしに飛ばして⋯結局のところ患者さん側からすれば一時間待ちの3分診療になってしまっていました。さらに外来が人気となると13時から予定していたオペに間に合わなくなるような事態にも繋がりますので、きっちり9時から診療を開始するようになりました。

当時は医療系も組合問題があったので、

定められた診療時間前に診察を始めると組合からクレームがきたんです@神奈川県横浜市

なるべく患者さんを待たせないで時間内は無理だとしても、常識的なお昼ご飯の時間には間に合うように工夫を自分なりにしました。

万が一、長時間お待たせした場合は一言「長時間お待たせして申し訳ありません」の一言を添えるだけで多くの患者さんは「先生は人気あるし」とか「忙しいねえ」とちょっぴりひきつった顔をしながら返答してもらえていました。

開業医の場合、患者さんを待たせるのは全てにおいてマイナスです

医師、特に勤務医の長時間労働に関して大いに論議が盛り上がっています。外来診察の場合、どれだけの数の患者さんを診察しようが、医師の給与に影響はありません。開業医の場合、患者さんの数は直接自分自身の収入に多大なる影響を及ぼしますので、出来うる限り多くの患者さんを診察した方が当然収入はアップします。

しかし、「あそこのクリニックってメチャ混んで待ち時間が長いのよねえ」「待たせる割りに診察は数分だし」なんてことをご近所の方の噂になると、患者さんの数は激減して、それに伴い収入も激減、ってことにもなりかねません。となるとある程度人気のある開業医の場合はどのようにこなすのか気になりますよね。

あくまで私見ですけど

診療に緩急をつけること、これでこなすことが可能です

定期的に来院する方には時間の余裕がある時は雑談を交えてたっぷり長時間診療、そして待合室がわんわんしている時は診察の後に「ごめんなさい、今日は予想以上に混んじゃって診察もなんとなく流れ作業的になってしまいました」という一言を伝えるだけで多くの患者さんは納得してくれます。もしも待ち時間問題で患者さんに不快の思いをさせて、それが患者さんの数を減らしていることになるのなら自業自得ですけどね。

さらに当院は地元密着型で21年間送ってきましたので、待合室が混んでいるのを見た患者さんは受付を済ませて「ちょっと買い物済ませてから来るわ」とか「子供を迎えに行ってから一緒に来ていいでしょうか?」のようにおっしゃっていただけ、大変ありがたいことです。

開業前に医師会の先輩に「患者さんを待たせるのも人気あると思わせるテクニック」「シャッターを開ける前に列を作らせるのが人気の秘訣」なんてことを行っていたジイさん方もいましたが、それに対してはその時点でも現在でも大いに疑問を抱いています。猛暑の中、シャッターも開けずに患者さんを待たせることは、待つことも待たされることも嫌いな私には理解できません。

当院の場合は診察開始時間の30分前にシャッターを開けることにしていますし、もし早めにいらした場合のことを考えてシャッター前にベンチを設置しています(もちろん日陰です)。

ひょっとして有名人だから待たされたことに怒っている、ってことはないですよねえ

当院も場所柄、いわゆる有名人の方もかなりの多いのです。私の場合、患者さんに恵まれているというか誰でもご存知の芸能方面の方も「あっ、自分はいくらでも待ちますから大丈夫です」なんてことをおっしゃる方も多いです。

あれだけ顔が売れている方となると、待合室でお待ちの方がザワザワし出すので、できる限り空いてる時間あるいは「今空いていますか?」って電話一本頂けると幸いに存じます。

当院の場合、有名人であろうと権力者であろうと、保険診療の場合は一般の方と同じようにお待ちいただいております

予約料制度は今のところ採用していません。ネット予約とか普通の予約システムも検討はしてはいるのですけど⋯それでお待たせした場合はどんだけ悪口をクチコミサイトに投稿されるかを考えるとまだまだ導入を決断できないという事情もあります、っていうかそれほど大人気のクリニックでもないし(笑)。

誰でもご存知の大会社の社長であろうと会長であろうと普通にお待ちいただきます(芸能関係の方と違って顔が売れている人はごくごく少数なので待合室はザワザワしません)。

記事から読み取ることはできませんが、伊集院さんはひょっとして自分が有名人であるのに待たされたのでは、との意見をSNS上で見かけました。伊集院さんの無頼派的なエッセイが嫌いではない私なんで、伊集院さんに限ってそんな理由で今回のようにブチギレたとは考えたくないですけど⋯。

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

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