著名人のがん死とそのリスク因子を記事にする件⋯喫煙と乳がんの関係を考えてみた。

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平成30年8月15日にちびまる子ちゃんの作者であるさくらももこさんが乳がんのためにお亡くなり、多くのファンがショックを受けました。ご冥福をお祈りいたします。

さくらももこさんがヘビースモーカーであったことによって喫煙が乳がんの原因になりうることを多く方に知ってもらおうとの気持ちからブログ等を書いた医療関係者およびインフルエンサーの方もいらっしゃるようです。ネットの反応で判断する限り喫煙が乳がんのリスクを高めることって案外知られていないようです

論外的なものとして、乳がんと喫煙の関連性の医学的根拠やいわゆるエビデンスも一切掲載しないようなスッカスカのペーラペラのタイトルだけ「さくらももこ 喫煙」とか「さくらももこ ヘビースモーカー」などのキーワードを散りばめた便乗アフィリエイトサイトも目についてしまうの非常に残念です。

先日乳がんで亡くなった、さくらももこさんの喫煙はがんの発症に影響を及ぼしているか?

さくらももこさんが乳がんによってお亡くなりになったことをきっかけとして、喫煙の怖さを多くの方に知ってもらおうという思いの記事に対して「死んだ著名人を利用して❗怒」的なご意見もSNS上では見受けられました。私はいい機会(うーん、うまい言葉が思いつかないので不快な思いをされた方はごめんなさん)なんじゃないかなあ、なんて感じています。というのも、禁煙につながる可能性があると思われているたばこの値上げが話題になったとしてもたばこの値上げ問題をきっかけに禁煙しようと思う人って意外と少ないのをご存知でしょうか?

この表現をちょっと誤解を招きそうなんで正確にお伝えするとたばこの値上げで禁煙に関心を寄せても、それは持続しない❗との研究があるんです。たばこの値上げは禁煙の良いきっかけになると思っていたのですが⋯。

となると、著名人がひょっとすると喫煙をしていなかったら、このようながんになる事もなく今でも元気に活躍できていたら、などの思いを抱いた方も多い現時点で乳がんと喫煙の関連性を記事にすることは責められるような行為ではないと私は考えています。

今回はさらに乳がんのリスク因子として喫煙は今のところ確実と判断して差し支えないこと、受動喫煙は家庭内の問題というより職場の問題として取り上げられる可能性があること、などをお伝えいたします。

たばこは値上げしても禁煙のきっかけにならないほど依存性があるのか?

非常に興味深い研究があります。今年の1月に「Tobacco price increases and population interest in smoking cessation in Japan between 2004 and 2016: a Google Trends analysis」(Nicotine Tob Res. 2018 Jan 31)という医学論文が大阪国際がんセンターがん対策センターの研究者たちによって発表されました。

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https://medical-tribune.co.jp/news/2018/0223513148/

さくらももこさんが乳がんで亡くなったことと喫煙の関連性についての話題を提供されたのもネット上。それを批判した投稿もネット上。そしてこの研究もたばこが値上げの日の前後で「禁煙」というキーワードの検索数の変化を調べたものです。この検索数を調べたのは2010年のマイルドセブンが一箱70円値上げになって喫煙者の関心を大いに集めた時点です。このグラフでもわかるようにたばこの値上げ前にはめちゃくちゃ検索数が増えていますが、人の噂も七十五日というか「禁煙」というキーワードで検索するボリュームは一ヶ月も待たずに急激に減少⋯禁煙への興味が短期間で薄れてしまっていることがわかります。

さくらももこさんが乳がんで亡くなったことを喫煙問題と絡めた記事に対して「日本では少なくとも49日は故人のことを考えたらネット記事にしちゃいかん❗怒」とのご意見もありましたが⋯たばこの値上げという喫煙者にとって切実な問題でさえ25日程度しか話題にならないのですから、49日過ぎたら多分多くに人は興味を失っているのではないでしょうか?

乳がんと喫煙の問題

先日こんなブログを書きました。乳がんのリスク因子として背が高い、があることって多くの方はご存知なかったのでは?

背の高い女性は注意❗高身長だと乳がんのリスクが高まります。

背の高い女性は注意❗高身長だと乳がんのリスクが高まります。

すでに高身長の方はどうしようもないのですが、他のリスク因子に気をつけてもらいたいとの気持ちで書きました。前掲のブログでさらりと書き流した乳がんと喫煙の関係も実は多くの方がご存知なかったことに驚きました。

たばこを吸う女性は、乳がんになりやすいとの疫学研究結果は2005年に発表された医学論文が根拠となっていますので、まだまだ多くの方には知られていないのかもしれません。

「Active and passive smoking and breast cancer risk in middle-aged Japanese women」(Int J Cancer. 2005 Mar 20;114 (2) :317-22)にとのタイトルで掲載された論文をわかりやすく解説しているサイトがありましたので、そちらを引用して乳がんと喫煙の深い関係、つまり喫煙は乳がんのリスクを高めることをご紹介しておきます(以下引用は国立がん研究センターの予防研究グループのサイトから)。

たばこを吸ったことがなく受動喫煙もないグループの乳がんリスクを1としたときに、たばこを吸うグループでは1.9、つまり乳がんリスクが90%増加したということになります。

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さらにこのような事も解説されています。

閉経していたか否かで二つのグループに分けて、乳がんとの関連を調べました。閉経前の女性では、たばこを吸ったことがあるグループの乳がんリスクは、吸わないグループの3.9倍高いことがわかりました。一方、閉経後の女性の乳がんリスクには、喫煙の影響はみられませんでした。

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上のグラフは閉経前に乳がんになった人の中で喫煙していたか否かを調べたものです。

喫煙者は非喫煙者に比べて3.9倍も乳がんになっていました❗

このような研究によって喫煙は乳がんのリスク因子である、と考えらるのです。この研究は今話題になっている受動喫煙に関しても衝撃的な結果になっています。

なんと受動喫煙でも乳がんの2.6倍リスクは上昇しています。

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さらにこのグラフは大きな問題を指摘しています。

家庭以外での受動喫煙が乳がんのリスクを高めているじゃないですか❗

ってことは家庭内での受動喫煙の発がんリスクより職場等での受動喫煙の方が乳がんのリスクを高めるとの結論になりますよね。

喫煙する人が様々な病気になる可能性を理解していても喫煙してしまうことは、経済的損失とか医療費の問題はあるにしても多様性の一つとの解釈も成り立ちます(愚行権の行使との考え方?)。また家庭内の問題に外部から口を挟むんじゃない的なご意見も十分承知いたします。

しかし、別に愛し合った関係があるわけじゃないし、血を分けた関係なんて無いよ、っていう職場での受動喫煙によって乳がんになるリスクが高まることが因果関係として明確に証明されたら⋯いつか経営者は乳がんの原因がわかっているのに対策を取らなかった受動喫煙対策が不備であったと理由で訴えられる可能性が無いわけじゃ無いでしょう。

多分(この辺りは法律の専門家にお任せしますね)。金銭的な損失としたら多分パワハラ・セクハラより高額になるんじゃないでしょうか。職場における喫煙問題は企業の危機管理体制問題の一つとして、大企業の方も十分ご注意くださいませ。

今回お伝えしたかったことは5つです

喫煙はもとより受動喫煙問題を取り上げている方に対して「喫煙者いじめ」ひどいのになると「禁煙至上主義ファシスト」なんて感じのご意見をせっせとSNS上に投稿されている人が結構いることに驚いてブログを書いてしまったので、まとまりが無いと受けとめるられるといけないので、お伝えしたいことを整理します。

  1. 著名人の死をきっかけに有用な病気の情報をネットに投稿するのは悪ではない
  2. 喫煙者にとって切実な問題であるたばこの値上げが禁煙につながるかはネットの検索ボリュームで判断する限りは明確ではない
  3. 乳がんのリスク因子として喫煙は今のところ確実と判断して差し支えない
  4. 受動喫煙は家庭内の問題というより職場の問題として取り上げられる可能性がある
  5. ひょっとすると受動喫煙問題を軽く考えている経営者(分煙じゃダメだよ)は将来莫大な訴訟を抱える可能性がないわけじゃ無いかもしれない

以上の5点ってことになります。

日本禁煙学会もさくらももこさんが乳がんで亡くなったことに関して、このようなリリースを出しております。

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声明自体はいかがなものかとは思われますが、このサイトからタバコと乳がんの関連性に関する最新知見を識ることができますので、ぜひご覧になっていただけたら幸いに存じます。

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

桑満おさむ医師のプロフィール詳細

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