最近、暇なときはなんとな〜くBSを観ることが多いのですが、先日NHKBSで「美と若さの新常識~カラダのヒミツ」ってのをやっていました。
発酵食品が健康に良さそうとの話は常識と解釈されています(個別の発酵食品については言いたいことが山ほどありますけど)。美と若さの新常識では味噌汁は飲む美容液、なんてことも言っていましたが今回はこれはおいておきます。
私がええっ〜❗ってなったのは味噌汁は血圧を上げるどころか逆に血圧を下げる物質が含まれているという話です。
本記事の内容
NHK美と若さの新常識~カラダのヒミツで味噌汁は血圧を上げない❗ってやっていたけど⋯
味噌汁=塩分たっぷり=高血圧の原因の一つ、という図式が頭に出来上がっている私としては本当に飛び上がりました❗日本食って体に良いのよね〜的な話に対して真っ向から歯向かう気持ちはありません(まあ、それもどんな食事と比較して健康的かが重要なんですけどね)。一般の診療風景として「血圧高めだから、お味噌汁は三度三度じゃなくて一回くらいにしようね」と指導している医師がほとんどだと思うのですが⋯
味噌汁は血圧を下げる❗という確かに新常識をNHKでは放送していたのです❗
このような標準医療に真っ向から半旗を振りかざしたNHKBS「美と若さの新常識~カラダのヒミツ」の味噌汁は血圧を上げないで、逆に下げる説をちょっと調べてみました。
味噌由来の塩分なら血圧上昇が抑えられる❗説を検証
日本人に馴染深い味噌、それを溶いた味噌汁、地域によって様々な味噌があります。どこでも誰でも簡単に購入できる味噌の代表として「マルコメ」のサイトをのぞいて見ると⋯「味噌は血圧を上げる」のウソ味噌の血圧上昇抑制効果という非常に反抗的というか常識に逆らうページがあります(https://www.marukome.co.jp/rd/result03/)。ここには次のように書かれています。
本当に味噌は血圧を上げるのでしょうか?この疑問に答えを出すため、マルコメは、味噌の成分を分析しました。その結果、血圧を下げるペプチドが検出されることがわかり、新規の成分も含まれていることが示唆されました。
つまり、味噌には血圧を下げる効果のあるペプチドが含まれているから、血圧は上げないよ❗ってことのようです。
じゃあ、そのペプチドってなんだろう、と当然考えますよね(ペプチドはアミノ酸がいくつかくっ付いたもので、アミノ酸が大量にくっ付いたのがタンパクとお考えください)。
これは動物を対象として過激に味噌の水溶液と食塩水を比較しています。動物(ラット)で実験してもねえ、という方はこの人を対象とした研究をご覧ください。
この研究の結果はかなり衝撃的です❗
16gの味噌を用いたみそ汁を1日2杯ずつ、3カ月飲んでもらう「長期ヒト介入試験」を実施。その結果、一般的なだし入り味噌では血圧を上昇させることはありませんでした。つまり、「1日32gまでの味噌摂取は、血圧を上げることはない」という結論を導き出すことができたのです。
味噌によって甘口とか減煙とかの種類があるようですが、甘口味噌だと16グラム中に塩分は1グラム、減塩味噌だと18グラム中に塩分は1グラム、辛味噌だと8グラム中に塩分は1グラム含まれています(調味料に含まれる塩分 http://www.municipal-hospital.shimada.shizuoka.jp/_src/sc7104/5_salt_20170623.pdf)。
この味噌汁を一日2杯飲んでも血圧は上がらないよ、との研究は論文になっていますので詳細を知りたい方は「薬理と治療」44巻11号, 1601-1612 (2016) の「長期味噌摂取が血圧および代謝に与える影響―二重盲検ヒト比較介入試験」をご覧くださいませ。
これだけじゃ
味噌のどんな成分のペプチドが血圧を下げる効果を持っているかがわかりません❗
NHKBS の「美と若さの新常識~カラダのヒミツ」番組内でそのペプチドについて語られていたのかもしれませんが、聞き逃しました(番組内ではたしか物質Xと呼ばれていました)。独自に調べたところ「ACE阻害ペプチド」というのが血圧を下げるペプチドのようです。
味噌に含まれる血圧を下げる成分ACE阻害ペプチドとは
高血圧治療薬でACE阻害薬と呼ばれる薬があります。アンジオテンシンⅡと呼ばれる物質が血圧を上げることが知られていて、そのアンジオテンシンⅡはアンジオテンシン1がアンジオテンシン変換酵素(これをACEと呼びます)によって変化することによって作られるので、その過程を邪魔する働きを持った成分で構成された薬がACE阻害薬です。
要するに
味噌にはアンジオテンシン変換酵素を邪魔する成分があるから、血圧が下がる
というのが味噌汁は血圧を上げるんじゃなくて、下げるんだよ説の裏付けのようです。
でも、これって変じゃないですか?いくら血圧を下げる成分が含まれていても、間違いなく血圧を上げる成分である塩分が味噌には含まれているんですから。
伝家の宝刀「世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事」を紐解けば⋯
今、情報通の間でブームになっている健康関連本があります。
UCLA助教授として統計学を駆使して医療常識に疑問を投げかけている津川友介先生の著作「世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事」です。
実は私は医療を行う際に「エビデンス、エビデンス❗」って言うのはあまり好みません。と言うのも「エビデンスがあるぞ❗」と言っても単に医学誌に掲載されたレベルからシステマティック・レビュー、RCTのメタアナリシスと呼ばれる非常に信頼度の高いものまで、ある意味ではエビデンスがあるよ、に含まれてしまうからです。レベルの低い医学研究だとどっから見ても科学的とは呼びにくいものまでありますから⋯例えば、これ❗
化学的にも問題がありますし、検証方法が科学的とは言えないと考えます。
津川友介先生の著作にも味噌汁に関する記述が見られます。「みそ汁を薄めて飲んでもダメ」によれば塩分を控えようと思って味噌汁をお湯に薄めて飲む人がいるが、お湯で半分の濃さになったみそ汁であっても2倍飲んだら同じこと、体に入る塩分の量は変わらない、だからどれだけの塩分を摂取しているかが重要であるとの内容です(第3章体に悪いという科学的根拠がある食べ物 P129)。ここから導き出される考えとしていくら血圧を下げる成分が味噌に含まれていても、塩分を摂取していることにかわりはないってことじゃないでしょうか?ストーブで室温を上げながら、同時にエアコンで部屋を冷やすことと同じような気がしないでもありません。
なんとな〜く体に良さそうな発酵食品、私は嫌いではありません。具がたっぷり入った味噌汁も大好物ではないですが、週に複数回は飲んでいます。血圧が高いから積極的にACE阻害ペプチドが含まれる味噌汁をガンガン飲もう❗なんてことは考えない方がよろしいかと思います。地上波のNHKの健康関連番組は「きょうの健康」以外は信頼度低いBSの方がまともと考えいました。でも、BSであってもこんな感じの「新常識」が大々的に放送されちゃうんですね。
個人的には発酵食品を扱った健康関連話は大好きです。今回は味噌が血圧を下げる成分が含まれているとの非常に興味深い話をテレビで知ったわけです。今後も食品に関する研究はどんどん続けていただきたいと思いますが、興味本位の健康関連のテレビ番組で使われちゃうことが残念です。