賛否両論の糖質制限ダイエット論争に幕はちょっと早すぎるような⋯。

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ここ数週に渡って

週刊新潮が衝撃の新証拠と題して糖質制限食を猛烈に批判しています

それを受けて糖質制限食を推進する側も反論しています。

糖質制限ダイエットに賛否両論ありますがメディアの取り上げ方も問題があるんじゃない?

糖質制限で「老ける」「寿命が縮まる」⋯ 東北大が研究

https://www.dailyshincho.jp/article/2018/04070801/?all=1

糖質制限食推進陣営 「炭水化物が命を縮める」 衝撃論文の中身とはなどの記事を読んで私は両者のご意見に疑問を持ってしまいました。BuzzFeed Japanの朽木誠一郎さんの著作「健康を食い物にするメディアたち ネット時代の医療情報との付き合い方」では健康問題に対するメディアに警鐘を鳴らしています。

健康を食い物にするメディアたち ネット時代の医療情報との付き合い方

糖質制限は果たして健康に良いのか悪いのか?

あるいは

糖質制限食は寿命を伸ばすのが縮めるのか?

そんな話題に翻弄されている方も多いと思われます。

お前はどっち陣営なんだよ、と言われてしまうかもしれませんが、現時点で医療関係者では無くても得られる情報を根拠として糖質制限食論争を考えてみます。

糖質制限食批判派の方、マウスの実験がそのまま人間に対応するわけじゃないと思うんですけど⋯

週刊新潮が糖質制限食を批判しだしたきっかけは日本農業新聞の記事「ご飯、うどん⋯ 炭水化物減らすダイエット 60代後半で老化顕著に 糖質制限ご用心」です。

東北大学大学院農学研究科の都築毅准教授のチームがマウスに糖質制限食を与え続けると老化が早まり平均寿命まで生きられなかったことを研究結果として得ました。これを元に糖質制限食批判が開始された模様です。しかし、マウスの実験がそのまま人にあてはまるのでしょうか?と素朴な疑問を持ちませんでしたか?日本農業新聞には

同グループは「長期の糖質制限はマウスの皮膚や見た目の老化を促進し、寿命を短くする」と結論付けた。

と書かれています。

つまり、

現時点ではマウスにとって糖質制限食は老化を早め寿命を短くする、ってことがわかっただけ

なんじゃないでしょうか。

もちろんこの研究に関して動物実験レベルの反論も今後多く出てくることが予想されます。

週刊新潮の糖質制限食批判記事の信頼度をさらに落としているのは、某医師のあくまで個人的な体験談です。

女医が告白、糖質制限で「脳梗塞」一歩手前 死亡率は1・3倍に

糖質制限食で見た目の老化が進行したと述べている医師はさらに、一過性脳虚血発作を起こしたことも糖質制限食に原因があると語っています。

これってどうみても※個人の感想ですレベルじゃん医師であるならばそのような結果に至った医学的な知見を語るべきですね(語っていても取り上げられなかったのならゴメンなさい)。

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糖質制限食の勝ち❗の元となった論文はちょっとヘンなんだけどね

糖質制限食論争は結論が出たよ的なご意見が書かれてるのが毎日新聞の医療プレミア。ここで糖質制限食の大家である江部康二医師が根拠としている論文は Associations of fats and carbohydrate intake with cardiovascular disease and mortality in 18 countries from five continents (PURE) : a prospective cohort study.です。

この研究論文の元となったデータはProspective Urban Rural Epidemiology(略してPURE)です。このPUREはカナダの研究者が18カ国の食事状況を調べて寿命に対する影響、心血管系の病気への影響を調べることを目的として膨大なデータを収集したものです。この研究は前向きのコホート研究と呼ばれる手法であり信頼度は高いと一般的には考えられています。

さらにランセットという非常にクオリティの高い医学誌に掲載されたものですから、普通の方でも医療関係者でも「おおー、ランセットで糖質制限食論争に結論がついたか」的な考えて当然です。

しかし、よくよく調べてみると対象国として⋯カナダやスウェーデンなどの経済的に豊かな国が含まれる一方でバングラデッシュやジンバブエなどの低所得国も研究対象となっています

江部医師は

  1. 炭水化物摂取量の多さは、全死亡リスクの上昇と関連している
  2. 総脂質も各種脂質も摂取量の多さが全死亡リスクの低下と関連している
  3. 総脂質、各種脂質の摂取量は、心血管疾患、心筋梗塞(こうそく)、心血管疾患死と関連していない
  4. (乳製品や動物性食品に多く含まれる)飽和脂肪酸の摂取量は脳卒中の発症リスクと逆相関している

とまとめられております。

これはこれでおっしゃる通りではありますけど⋯そこで疑問

  1. 低所得国ではどうしても主たる栄養を炭水化物から得ている可能性は検討されているでしょうか?
  2. 低所得国での感染症問題、飢餓問題、栄養失調問題の影響は考慮されているでしょうか?
  3. 脂質においてトランス脂肪酸の取り扱いが述べられていませんが?

などの素朴が疑問が湧き出てきます。このランセットの論文の結論が間違っているということではなく、論文で使用されているデータの質に問題がありそうです。

結論:糖質制限食論争はまだ幕じゃないよ

メディアは売れれば良い、話題になれば良いと考える傾向は確実に存在します(詳細は「健康を食い物にするメディアたち ネット時代の医療情報との付き合い方」をどうーぞ)。統計学は最強の学問である、との考え方を私は支持するものですが、元となるデータの収集方法を間違ってしまうと、ヘンテコな結果につながってきます。

糖質制限食関連のブログを書くと、各方面から攻撃されることを今まで経験しておりますので、今回は賛否両論とも批判&疑問を述べてみました(こりゃ下手すりゃ両陣営から攻撃かあ、ヤッベー)。

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医療はとかく統計学で論じられる学問なので個人的には名著「『原因と結果』の経済学」を書かれた津川友介医師の4月13日に出版される「世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事」で糖質制限食に関して書かれているといいなあ、と期待しております。

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

桑満おさむ医師のプロフィール詳細

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