昨年、がんの治療に民間療法と言われている代替療法を選択すると死亡リスクが2.5倍になるということが新聞等で報道されました。
東京新聞 2017年9月19日 夕刊「ホメオパシー、ハーブ投与⋯ がん治療で代替医療、死亡リスク2.5倍」
本記事の内容
ハーブ療法で1型糖尿病の少年を治療⋯死亡事件発生
自分のがんを自然療法のハーブ療法を治すことができたとされる人が、余計なお世話で1型糖尿病の13才の少年の治療をしたところ、死亡させてしまった事件が先日、米国CBSNEWSで報道されていました。
Newsweekでも記事になっていましたので、全米でショッキングな事件として大体的に取り上げられたようです。
自分がハーブ療法で治った、じゃあ、君も治るよね⋯とはいきません❗
自分がたまたま自然療法を試したところ、たまたま持病が治った。じゃあ、これは副作用もない安全な治療方法だから多くの人に知ってもらおうと書籍を出版する人が後を絶えません。
多くはたまたま治っただけであり、これが第三者である、あなたの病気の治療に役立つはずは無いのです
ハーブ療法は人類にとって古い古い民間療法の一つ。薬草という言葉があるように、ハーブも医療効果がある成分を含んでいることは昔から経験的に知られていてその薬効成分を抽出したものが医薬品になっています。ハーブ療法は現代でも標準医療を補完する役割はそれなりに認められていますが⋯ハーブを主軸にした医療より、有効成分のみを抽出したいわゆる西洋薬の方がある意味で余計な成分を体内に取り込まないので安全性が高く、効果も高いとの合理的な思考を放棄した人がいるのも事実です。自然なものは安全、という考えに取り憑かれてしまった方はご一考くださいね。
たまたま自然療法を選択してがんが治っただけであり、その自然療法を科学的・医学的な検証を行うとプラセボ以上の効果が認められることはまずありません。
注意:全ての自然療法・代替療法・補完療法がエビデンスがゼロというわけではありません。
検証を繰り返しても代替療法が標準医学と同等の治療効果は無いことは明らかです
前掲の東京新聞のがん治療で代替医療を選択した場合、死亡リスクが2.5倍にもなることは以前ブログにしました。
米国で起きた事件は自分の前立腺がんが治ったのはハーブ療法のお陰であると考えたハーブを販売している男がセミナーを開催して、それに参加した1型糖尿病の子供をもつ親の相談を受けてのことと報じられています。この1型糖尿病はインスリン依存型糖尿病であり、子供のうちに発症することが多いために小児糖尿病とも呼ばれていて、インスリンの分泌自体が出来ないことが原因なので治療はインスリン注射をしなければならないのです(他に移植等の治療方法もあるにはあります)。
ハーブ療法家は糖尿病、それも1型糖尿病の少年の危機的状況をハーブで治せると思い込んだのか、不思議でなりません
また、そのような怪しげな治療家に自分の子供の命を託した親御さんもなんでそんな方法を選択したのか、非常に後味の悪い事件です。
被告は現在83才で40才の時に前立腺がんと診断されています(今から40年前には前立腺がんの腫瘍マーカーであるPSAはまだ医療現場で使用されていませんので
本当に前立腺がんと確定診断されたのか疑問が残ります
たとえ前立腺がんであっても、緩慢に進行していく悪性度の低いものであったら、そりゃあハーブ療法を選択しても生存期間は長くなると思われます(その辺りの詳細も後で書きますね)。
ハーブ療法を含む代替医療と呼ばれている民間医療のがんに対する治療効果
がん治療に対して自然療法を選択した場合、私のブログは5倍、東京新聞の報道は2.5倍になっています。前掲のブログを読んでいただくか、あるいは東京新聞の右に書かれている表をご覧になればわかります。乳がんだと5.6倍リスキーであり、結腸がんだと4.6倍死亡リスクが高まり、調査対象となったがん全体の場合を平均すると死亡リスクが2.5倍になったからです。なんで平均すると2.5倍と死亡リスクが小さく見える、その理由は前立腺がんが調査対象に含まれているからなんです。
米国のハーブ治療家はもともと5年生存率が高い前立腺がんに掛かっていたので、標準治療を併用していたのかは不明ですけど、
ハーブ治療のお陰で前立腺がんが治ったワケでは無い可能性が大いに予想されます
「Use of Alternative Medicine for Cancer and Its Impact on Survival」(Journal of the National Cancer Institute)が東京新聞および私のブログの元ネタですが、この調査では前立腺がんは代替療法を選択しても標準治療を選択しても大きな差はありませんでした。
実は前立腺がんの場合、他のがんと比較して腫瘍マーカーであるPSAがあまりにも鋭敏かつ特異的であるために、治療する必要の無い前立腺がんの存在まで検出してしまいます。悪性度や病期に応じて積極的な治療を行わない監視療法が選択される場合も近年は増えてきています。
自然療法で自分はがんを治したと思い込んでいても、そのがんは積極的な治療を必要としていなこともあります。健康雑誌や健康関連書籍の多くに見受けられる「自分はこんな自然療法でがんを克服した。だから、あなたに自然療法を伝授します」的な情報が実はあなたには当てはまらない場合がほとんどです。
たまたま本に書かれていた自然療法(多くの場合は食事とか食材)でがんやその他の病気が治った人の場合、その自然療法の熱心な信奉者となってしまいます。そうなると、自分もその食事方法や食材によって病気が治ったから、あなたもぜひ試すべきであるという方向性になってしまうのです。
友人が宝くじを当てた、その人は玄米を食べていた、じゃあ、自分も玄米を食べたら宝くじが当たるか?
と考えてみてください。そんなことありえませんよね〜、でも病気だとどうしてそのような合理的理論的な思考が出来なくなるのでしょうか?
医療不信という大問題もあります。今、数人がん患者さんで自然療法を選択している方がいらっしゃいます。必ずしも医療不信だけが、標準医療を選択しなかった理由では無いことをお聞きしています。その理由を書いてしまうと患者さんとしては私が守秘義務を遵守しなかったと捉えますので、時期をみて患者さんの同意を得てからブログ等で考察していきたいと考えています。