医学常識に対して逆張り説を掲げてメディアで取り上げられる有名医師である近藤誠氏の最近の著作「近藤誠がやっている がんにならない30の習慣」(宝島社)の初版本を持っています。
本記事の内容
胃がんにならないため「ピロリ菌を除菌」VS「除菌しても意味がない」
近藤誠氏の理論「がんは放っておけや❗」じゃないけど、購入してはいたけど放置していました。
まあ、30の習慣のうち、9.5習慣くらいは同意できるタイトルでした(近藤医師がその習慣をやっている理由の医学的根拠については疑問があるもの多数)。この著作で
ピロリ菌除菌について近藤誠医師がホリエモンをスッゲー勢いで批判しています。
先日、素人が素人の健康法を一次ソースとして健康関連情報を記事にすることについてブログで批判しました。
医学については素人であるホリエモン、ホリエモンを批判している近藤誠氏は医師免許をお持ちなんで素人ではありません。
さて、胃がん対策として積極的にピロリ菌の検査を推奨する医学の素人ホリエモンとピロリ菌検査及びピロリ菌の除菌について反対しているトンデモ系医師の代表格であるけど素人ではない近藤誠氏。
この論争っていうか、一方的にホリエモンに噛み付いたプロ近藤誠医師の主張、どっちが正しいのかを胃がんやピロリ菌は全く専門ではないけど、一応医師免許を持っている私が整理してみます。
こんな理由で近藤医師はホリエモンを攻撃しているけど⋯
ホリエモンがピロリ菌検査をしてピロリ菌を除菌することで胃がんの発症を3-4割減らせる可能性があることを知ったが、ピロリ菌検査及びピロリ菌除去による胃がん予防の認知度が低いことをクラウドファンディングのサイトに書いたことが近藤誠氏の気に障ったようです。
このクラウドファンディングが予防医療普及協会というピロリ菌簡易検査キットの販売を行なっている組織のバックアップになっているために「早期発見・早期治療ビジネス」の手口である、これは患者さんを”呼ぼう”医療普及協会であり、金儲け主義であるとのお考えのようです。
ホリエモンが明らかに標準医療とかけ離れた主張をして、ニセ医学と考えられるインチキがん治療やトンデモ代替医療を推奨しているのなら、それは真っ当な医師から批判を浴びて当然です。
ホリエモンが言う所の除菌することによって胃がんの3-4割りを減らせる可能性、この主張にエビデンスがあれば近藤誠医師がただ単に検診や人間ドックは意味がない、医師に近づかないのが苦しまずに平穏な最期を迎えるというご自分の意見に反するからホリエモンを批判の対象にしたと考えられます。
標準医療ではピロリ菌はこんな病気と関係していると考えるのが一般的です。
ホリエモンの語る「ピロリ菌を除菌することで胃がんの発症を3-4割減らせる可能性」、この話は日本消化器病学会の「予防医療としてのピロリ菌検査と除菌」にはこのように書かれています。
除菌したグループと除菌しないグループを約8年間継続して観察してみたところ、除菌をした方が約30%発がんを抑制できたとい結果が出ています。
⋯難しい英文で書かれた医学論文を提示するまでもなく、日本消化器病学会が一般の方向けに作ったページにしっかり書かれています。結局
ホリエモンの語るピロリ菌の除菌効果に間違いは無い❗
ってことです。
近藤誠医師が「ピロリ菌を除菌しない」習慣を取り入れている理由のここがヘン❗
前掲の「がんにならない30の習慣」の中で習慣9として「ピロリ菌を除菌しない」との項目があります。その理由としてピロリ菌を除菌すると死亡率が上がるです。
また、ピロリ菌を持っている早期の胃がん患者さんを除菌するグループと除菌しないグループに二つに分けた研究があり、除菌したグループの方が新たな早期胃がんが減った論文に対して、近藤誠医師はピロリ菌を除菌しても「胃がん死亡数」「総死亡率」に関して記述がないことにお怒りの様子。
これらを説得力のあるものにするには一次ソースである論文のタイトルや番号を示すべきなですけど、近藤医師の書かれた本は素人さんむけ。こちらも英文の論文を提示するより、どなたでもアクセスできるものとしてこんなのをご用意いたしました。
当院も参加したJapan Gast Study Groupではピロリ菌を除菌することにより、胃がんの発生を抑制できるかという研究を行いました。この研究では早期胃がん内視鏡術後にピロリ菌を除菌することにより、異時性多発がんの発生が1/3になることが明らかになりました。
がん研有明病院「早期胃がん内視鏡治療後のピロリ菌除菌治療」
ピロリ菌を除菌することで胃がんの発症を抑えることは「Helicobacter pylori eradication therapy to prevent gastric cancer in healthy asymptomatic infected individuals: systematic review and meta-analysis of randomised controlled trials」(BMJ. 2014 May 20;348:g3174)で明らかにされています。
近藤医師は多分この論文を目にして、ピロリ菌を除菌すると死亡率が上がると思ったと予想されます。
この論文が言わんとしていることはピロリ菌除菌で健常者の場合、胃がんの発症を減らす、ってことです。論文の総死亡率を見てみると有意差は無いのですが、若干ピロリ菌を除菌しないグループの方が低くなっています。
これによってピロリ菌を除菌すると死亡率が上がると考えるのは間違い
その理由として、胃がんで死亡しないために、他の病気での死亡が増えるために総死亡率が増えて見えるだけとも考えられます。
不利益なことばかり騒ぎ立てる近藤誠医師
近藤先生はピロリ菌を除菌することによって、偽膜性大腸炎を発症して死に至ることもある、なんて述べていますけど、確かに除菌に使用する抗菌剤がその原因になる場合もあります。
偽膜性大腸炎は抗生物質(抗菌剤)を長期使用することによってクロストリジウム-ディフィシル感染症にとなる病気で、多くは老人施設で集団発生することがあります。
ちなみに偽膜性大腸炎の罹患率は米国のものしか見つけられませんでしたけど、100万人あたり23.7人。一方胃がんの発症率は男性10万人あたり78.9人、女性10万人あたり67.1人、これを100万人あたりにしてみると男性789人、女性671人となります。
偽膜性大腸炎の恐怖を語るより、胃がんになることの方がメチャクチャ高いことを述べないで、ご自分のヘンテコな主張を発刊し続ける近藤誠医師の方が、よっぽど病気をビジネスにしていると思います。
ホリエモンの本もちょっとヘンだけどね
おまけ:ピロリ菌だけが胃がんの原因ではありません。喫煙や過剰な塩分摂取も関連していますことにご注意ください。
また堀江貴文さんの著書「むだ死にしない技術」の帯の「胃がんの99パーセントはピロリ菌が原因」には若干の疑問点は残ります。あくまでピロリ菌感染は胃がんを引き起こす因子の一つですからね。でも少しでも因子を無くすことはメリットとデメリットを考えても、ピロリ菌の除去の場合行う方が良いと判断します。