中年以降のオッサンを悩ませる夜間頻尿やオシッコがスッキリ出ない症状が出てしまう病気の多くは前立腺肥大症が原因になっていることが多いです。腎臓で作られたオシッコが膀胱に溜まり、膀胱の下にある前立腺を通過して尿道から外に尿は出ます。
この通り道の一つである前立腺が老化によって肥大することが原因となって前立腺肥大症となり、尿が出にくい、スッキリ出ない、夜にオシッコになんども行ってしまう夜間頻尿を招きます。
本記事の内容
夜中にソワソワ、スッキリしない方、夜忙しい方へ、って表現のノコギリヤシサプリ
前立腺肥大の症状を改善するとされるノコギリヤシを成分とした、サプリメント販売会社としては直球の表現が取れないために「夜間にソワソワ」「夜忙しい方」「スッキリしない方」なんて感じの広告をしまっくっています。このノコギリヤシの効果については、泌尿器専門医の間でも「あんなの全く効果ないよ」という医師もいれば「まあ、それなりの効果もあるらしいから飲んでいても問題ないよ」という泌尿器科医もいます。
「ノコギリヤシ」のキーワードで検索すると大手サプリメーカーの広告がズラズラ表記されます。これらの宣伝文句は明らかに前立腺肥大症に伴う症状の改善をイメージさせる表現ですね。
ちなみに当院所属の複数の泌尿器専門医は「ノコギリヤシ全く効果なし」派です。よく患者さんから聞く言葉として「医師によって言っていることが違う❗」というものがあります。患者さんとしては泌尿器科を受診する方がもっとも多い当院としてのノコギリヤシの前立腺肥大症に対する効果についての評価を述べてまいります。
前立腺肥大症って前立腺が肥大するから出てくる症状じゃないんだよ⁉
お前何を言い出すの?と思われたかもしれませんが
前立腺が大きくても前立腺肥大症じゃない場合は多いのです
さらに
前立腺肥大症の症状があっても前立腺が肥大していないこともあります。
これ益々「お前、泌尿器科医なのに何言ってんだよ❗」と思われるでしょう。
実は前立腺肥大症という病名が混乱を招いているのです。前立腺肥大症を英語で書くと「Benign Prostatic Hypertrophy」これを略してBPHと泌尿器科医は呼んでいます。このBPHは前立腺が悪性でないけど大きくなっている状態を示す言葉であり、正確には病状を示した病名ではありません。オシッコの出方を排尿、オシッコをためることを蓄尿と呼びますが、この排尿・蓄尿に異常が出た状態を下部尿路機能障害と専門的には呼び、英語では「The Lower Urinary Tract Symptoms」と書き略して「LUTS」(ラッツ)と泌尿器のプロは呼んでいます。
排尿・蓄尿状態に異常があると夜間頻尿や残尿感、日中の頻尿、尿の勢いが悪い、尿のキレが悪いなどの症状が出て、これがノコギリヤシサプリメントの広告の表現である「夜中に忙しい方」「そわそわする方」「スッキリしない方」って感じの表現になっています。多くのノコギリヤシサプリメントは明らかに前立腺肥大に伴う下部尿路症状を改善するような表現を取っていますが、果たしてノコギリヤシの前立腺肥大に伴う排尿障害を改善するのか、そのエビデンスはあるのか、現時点での大方の泌尿器科を専門としている医師の見解は「効果なし」なんです。
ノコギリヤシを飲んでも、尿の症状は改善しない
男性特有の気になる部分のケアをサポートする(http://www.angfa-store.jp/ITEM/SPNGY000A1)、「ドライブや旅行の不安をなくす」「昔のようにスッキリしたい」(サントリーのノコギリヤシサプリの広告などより)の表現で溢れかえる
ノコギリヤシを主成分としたサプリメントですが、前立腺肥大に伴う症状に対する効果は多くの研究で否定されています
例えば「Effect of increasing doses of saw palmetto extract on lower urinary tract symptoms: a randomized trial」(JAMA. 2011 Sep 28;306 (12) :1344-51.)という比較的新しい医学論文があります。これは45才以上の男性369人を対象としてダブルブラインドによって行われたランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial)であり、結果の信頼度が高いものです。この研究の結果「夜間頻尿」「尿流量」「残尿量」などの下部尿路障害についてノコギリヤシの効果はプラセボと差がなかったとなっています。つまり、ノコギリヤシは前立腺肥大症の症状を改善するエビデンスは得られなかった、ということです。これは北米で行われた研究なんで日本人との人種差もあるから、ひょっとして日本人には効果があるかも?と思われた方もいらっしゃるでしょう、でもね〜⋯あえて泌尿器科医の専門団体である「日本泌尿器科学会」の公式見解ではなく(泌尿器科医の陰謀だ〜、って言われないため)公益財団法人日本医療機能評価機構機構の見解をご紹介しますね。
日本医療機能評価機構機構の前立腺肥大症ガイドラインの健康食品というページには
その結果ノコギリヤシに関しては,benign prostatic hyperplasia,Saw-palmettoもしくはSerenoa repens,ノコギリヤシをキーワードとして検索して得た96論文から,エビデンスの高い5編を引用した。
有効性を支持する根拠は乏しい(レベル5),または一貫しない(レベル1)。安全性の保証も不確実で,患者負担も高い。
ってことです。
ノコギリヤシの下部尿路障害に対する効果は有効性も確認されていなければ安全性も担保されていないし、費用も自費なんで(サプリだから当たり前)患者さんの金銭的負担も大きい、つまりノコギリヤシの前立腺肥大に伴う効果は無し❗ってことです。
ノコギリヤシはオッサンにとって全く効果がなく無駄なサプリなのか?
ノコギリヤシだけじゃ効果が出ないからかどうかは知りませんけど、ノコギリヤシを主成分としたサプリの多くはセサミンとかカボチャのタネとかを混ぜ込んだ商品が目立ちます。まあ、効果がありそうなものはなんでも混ぜちゃえ、との考え方がサプリメント業界にはあり、使用者もそれをお得だと感じる方もいるんでしょうね。
ノコギリヤシの効果として、なんとなーく薄毛を改善するような表現を使用している会社もあります。
薄毛に対するノコギリヤシの効果については、いつか詳しく調べてみる予定です。