泌尿器科をやっていますと、寒くなるこの時期に多くなる病気が膀胱炎と頻尿です。
頻尿だと尿の回数が多くなって生活の質が低下しますが、多くの患者さんは「尿が多いのですけど」とご自分の症状と医師に伝えます。そんな時「尿の量を測っているのですか?」との質問すると「いやいや尿の回数が⋯」なんてやり取りが日常の泌尿器科では行われています。
おしっこの時間は何秒なら健康?
尿の回数が多いことを「頻尿」と呼び定義としては朝起きて寝るまで8回以上オシッコをすることです(日本泌尿器学会「尿が近い、尿の回数が多い ~頻尿~」より)。
次に患者さん、特に中年以降の男性に多いのが「おしっこに時間がかかる」「排尿が終わるまでの時間が長い」という訴えです。泌尿器科では尿の勢いや尿の量、そして排尿する時間を測定する「尿流測定」という検査を行うことがあります。尿の出る勢いは最大で15ml/秒以上が正常です。、一回の排尿量を仮に300mlとすると20秒前後で排尿が完了すれば特に問題なしと考えます(たまっている尿の量によって排尿時間は変化します)。
この排尿時間、哺乳類ならみんな仲良く21秒との研究論文があるのです
そんなバカな、って思った人はこの論文読んでみてね。「Duration of urination does not change with body size」(Proc Natl Acad Sci U S A. 2014 Aug 19;111 (33) :11932-7) 、タイトルをそのまんま訳すと「排尿時間は体の大きさによって変わりません」になります。
どんな動物でも排尿時間はみんな仲良く21秒⁉
食べもの・飲み物が身体で吸収され、代謝され血液の一部となって体内をめぐり、最終的に腎臓でろ過されて、最終的に尿として体外に排泄されます。前掲の論文によれば身体の大きなゾウであっても、体の小さなネズミであっても、もちろん人であっても排尿に要する時間は21秒❗ってことです。本当かよ⁉と感じた方はご自分の愛犬を散歩に連れて行った時にぜひぜひ測定してみてくださいませ、たぶん21秒前後になるはずです。
ゾウの膀胱の大きさとネズミの膀胱の大きさ、そして人間の膀胱の大きさはかなり差があるはず。体の大小、つまり膀胱の大小に関わらず排尿時間が同じってことは、おしっこの通り道である尿道の太さや排尿筋の収縮力の影響によって、大きな体の動物は勢いよくジャア~❗と出るはずですし、体の小さい動物は弱弱しくチョロチョロと用を足しているんですね。
なんで排尿時間は21秒ってことになったの?
この哺乳類排尿時間みんな平等説ですが、なぜこのような結果になったのかと素朴な疑問が⋯。尿をしている時間はどんな動物でも不用意であり、危機管理ができていない状態なので、敵に襲われる可能性が出てきます。人間でも1日8回おしっこをしていて、そのたびに10分かかってしまえば敵に襲われる可能性、大昔だったらケモノの餌になるリスクが高くなってしまいますものね。だからこそ21秒程度で排尿を済ませることができる動物が現在まで生き残ってきた、おっしこ時間21秒進化の法則を思いついたのですけど⋯あまり、合理的な説明になっていない様です。
この研究行った研究者はベルヌーイの定理などを持ち出して検討していますので、ダーウィンの進化論的な方法でこの説を考えるよりは、物理学的思考で「どんな動物でも排尿時間は21秒説」が説明できるようです。
うぁっ❗これイグ・ノーベル賞を受賞している
今回取り上げた論文について調べていたら、この論文は2015年にイグ・ノーベル賞の物理学賞を受賞しています。ウィキによれば2015年は他に「車が減速用スピードバンプの上を乗り越える際に患者が感じる疼痛によって、きわめて正確に急性虫垂炎と診断できることを判断したことに対して」とか「ニワトリの尾部に重しとなる棒を取り付けることにより、恐竜の二本足での歩き方の推定と同じような歩き方をニワトリがするようになることを観察したことに対し」ての論文が受賞しています。今回取り上げた論文、よくよく見てみると哺乳類の平均的な排尿時間は21秒±13秒⋯これって統計学的に分析して「哺乳類は体の大小に関わらず排尿時間は同じ」って言い切れるのかな?
http://www.pnas.org/content/111/33/11932.fullでフルテキストで読むことができます(さまざまな動物の排尿する動画もあります)ので、お時間のあるかたはぜひご覧くださいませ。