朝日新聞といえば、最近は隣国のヘンテコな銅像の件で信頼度急降下なんて声も聞こえてきますが、年配の人を中心には一般的にはかなり信頼度の高いメディアと思われているはずです。ビールといえばキリンと言う時代もありましたが、このキリンは協和発酵キリンという会社名で創薬も行っていて、処方薬も販売しています。
キリンがビールの原料のホップに認知症における記憶力を改善させる効果があるとと発表を行いそれを朝日新聞デジタルが「ビール苦み成分、認知症の記憶力改善? キリンなど実験」との見出しで取り上げています(http://digital.asahi.com/articles/ASKCN76MKKCNULFA02V.html)。
本記事の内容
朝日新聞とキリンが言うことですから、信頼度高いですよね〜、違ったっけ?
以前、キリンホールディングのサイトでホップが体脂肪を減らすとの記事を見つけて、このグラフに対していくつかの疑問を抱いてしまいました。
論文に掲載されたことを示すために「引用文献:Nutrition Journal 2016, Volume 15, No.25」と記されていても普通の方はこの論文にたどり着けないと思います。
せめて論文のタイトルを明記してもらいたかったのですが、これだけじゃヒトに対する実験なのかマウスによる実験なのかもわかりませんし、ヒトに対するものなら対象者は何人であり実験結果を確実なものにするためにダブルブラインドで行われたのかさえ不明です(調べたところ成人200名を対象に行われたようですが、厳密な意味でのダブルブラインドであったかは不明です)。
となると今回のビールに含まれるホップの苦味成分が本当に認知症に効果があるのかという点を検証して見たくなりました。
マウスと人間では大きな違いがあるんだけどなあ
朝日新聞デジタルはこのように報じています。
研究では、ホップに含まれる苦み成分「イソα酸」を認知症のマウスに1週間、毎日体重1キログラム当たり1ミリグラムを経口投与し、記憶力を測る実験を実施。
その結果
事前に触れさせた積み木などを「すでに知っている」と認識するまでの反応時間などをみると、投与した認知症のマウスは、与えていない認知症マウスと比べて9・5倍よいとの結果が出たという。
とのことですから、マウスを使った実験であり、そのままヒトに通用するかどうか明確ではないので朝日新聞デジタルは見出しに「?」をつけたようです。この記事に出てくる「イソα酸」が認知症改善効果を持っているよう解釈できます。
この実験を人間の体重に換算すると⋯ちょっとヤバイぞ❗
最近物忘れが多くなってきた私はビールを愛しています(アサヒスーパードライだけどね)、そうなると家族に「またビール飲んでる」との非難に対して「ビールに含まれるイソα酸が記憶力を改善してくれるんだから、健康のために飲んでいるんだぞ」と反撃できるはずです。
薬の効果を見るためにはまずは動物実験、マウスが頻用されますが、マウスの体重は20グラム程度です。オッサンの平均的体重は多分65キロから75キロくらいと仮定して、計算しやすいように70キロとします。そうなるとオッサンはマウスの3500倍の体重ってことになります。キリンの研究はマウス1キログラムあたりイソα酸を1ミリグラム経口投与しているんで、オッサンに対しては70ミリグラム服用させれば体重換算あたりのイソα酸は同じ条件になります。記事中にこんなことが書かれています。
キリンによると、効果が得られるイソα酸の一日の摂取量は、体重50キロの人で4~5ミリグラムとされる。例えば、ノンアルコールビール1缶(350ミリリットル)で、4ミリグラムのイソα酸が摂取できる。ふつうのビール1缶にも6ミリグラム含まれる
⋯ってことは、
この実験と同じような効果を発揮させるためには缶ビール11.6本を毎日飲まないと人間(私の計算はオッサン)が認知症による記憶力の改善は期待できない
ってことになりますよね、これじゃあアル中にもなりますし、肝機能障害や痛風の心配が出てきちゃうのではないでしょうか?さらにアルコールの副作用として脳が萎縮することが知られていますので、認知症による記憶力の改善がはかれても脳全体の機能低下のリスクも出てくると思われます。朝日新聞デジタルの記事で大喜びしたオッサンは奈落の底に(私のことですけど)。
キリンさま、サプリメントなんて言ってないで医薬品として開発してくださいませ
サプリメントや健康食品、あるいはトクホ・機能性表示食品・栄養機能食品より処方薬の方が価格は高くなると考えれます。認知症の薬として有名なアリセプトは10mgで薬価は537.40円、 メマリー20mgは439.70円となっています。ちなみにアリセプトは2015年の売上高は海外も含め633億円あります(ミクスonline調べ https://www.mixonline.jp/Article/tabid/55/artid/54107/Default.aspx)。
アリセプトは日本の製薬メーカーであるエーザイが開発したもので、認知症改善薬は世界市場に進出可能ですからキリンも健康食品市場を狙うより医薬品として「イソα酸」を開発販売した方が利益が出るんじゃないでしょうか?「イソα酸」に認知症改善のヒントがある可能性は非常に高いものと考えられます。生き馬の目を抜くという表現がぴったりの業界ですから、医薬品として開発する間にキリン以外の健康食品会社がサプリメントとして売り出しちゃうかな「うっかりが増えた方」「モヤモヤが増えたなと思ったら」「ボーッとすることが多くなった」なんて感じのフレーズで。