文春砲を打ちまくる週刊文春ですが、医療記事となるとかなり怪しげです。
ここ一ヶ月ほど、色々ありまして、外部からも内部からも「トンデモ系」に関するブログをあまり書かないで欲しいとの要望がありました。トンデモ系ばかり書いているワケじゃないのですが、まあトンデモさんの行動は様々なんで(あとはご想像にお任せします)。
本記事の内容
ホルモン漬けアメリカ産牛肉で乳がんや前立腺がんになる⁉
私からトンデモ系ニセ医学を取り上げたら、ピタリとブログを書く意欲が無くなってしまった次第です。
ところが文春オンラインで「『ホルモン漬けアメリカ産牛肉』が乳がん、前立腺がんを引き起こすリスク」なんて記事を見つけちゃったら、ブログを書きたくてウズウズ、やっと内部の許可をもらってこれを俎上に載せてブログを書いちゃいます❗
この記事で危ない、危ないって言っている牛の肥育に使用されているホルモン、本当に乳がんや前立腺がんを引き起こすんでしょうか?
少なくとも文春が騒いでいるエストロゲンは前立腺がんのリスクと全く関係ありません
と、いうのもこの記事に登場する
女性ホルモンであるエストロゲンの仲間であるエストラジオールって前立腺がんの治療に使うんだぞ❗
この文春のタイトルはどう見ても、アメリカ産牛肉が乳がんや前立腺がんの原因である、と思わせるものになっています。しかし、この記事かなりヘンテコであり、読者を誤解させる記事なんで、どこがどうヘンなのか少々解説させていただきます。
70年代から牛肉の輸入が増加しているから日本でがん患者さんが増えている⁉
文春ではこんなことが書かれています。
これらはいずれもホルモン依存性がんと呼ばれているものだ。なぜ日本人にホルモン依存性がんが増えているのか。藤田博正医師(北海道対がん協会細胞診センター所長)は、昔からアメリカに移住すると卵巣がんや子宮体がんが増えると言われていたことを思い出し、食事の変化に注目した。
こんな話は聞いたことないです、まあ私の知識が足りないのかもしれませんけど。
そして日本でがんが増えた理由を
アメリカからの輸入牛肉に思い当たったという。日本では70年代から牛肉の輸入が増加し、その頃からハンバーガーも食べ始めた。
らしいのです。
この文章を裏付けるように尤もらしいグラフが掲載されていますが、これって完璧に原因と結果ではなく、たんに相関関係にあるだけ、って普通の医師なら捉えるはずです。40-50歳代の女性にがんが増えている、その原因はアメリカ産の牛肉を使用したハンバーガー、というロジックらしいのですが、グラフにある数字って有意差あるの?と感じてしまいます。
データに使用したサンプルがたったスーパー1店舗??
スーパーの牛肉から高濃度のエストロゲンが検出された❗って大騒ぎしていますが、その牛肉は札幌市内のあるスーパー1店舗のもの(笑)、こんなサンプリングでエストロゲンがー、とかアメリカ産の牛肉から大量のホルモン剤ガー、なんてこと言えるのでしょうか。
アメリカ産の牛肉が輸出されていない英国でも子宮がんは年々増加しています
日本人だけがなぜか米国産牛によって子宮がんが原因となってがん患者さんが増えているってことなの、文春の記事を書いた奥野修司さん。
普通に考えてがん患者さんが増えているのは、検査技術の向上と高齢化が一番影響しているのです。また、がんという生命を危険にさらす疾患に対する研究で、たった一軒のスーパーの牛肉を検査して、高濃度のエストロゲンが検出された❗って本当に藤田博正医師(北海道対がん協会細胞診センター所長)が述べたとは思えないです。
あのー、すいませんけどアメリカ産牛肉と前立腺がんのリスクについて記事がないのですが⋯
相当気合いの入ったタイトルのこの記事ですが、タイトルにある前立腺がんのリスクはどこに行っちゃったんでしょうか?
記事は2ページで構成されていますが、前立腺がんがアメリカ産牛肉の残留ホルモンが原因であることは全く書かれていません。エストロゲンの影響で精子の数がうんぬん、との記事があるだけです。まあ、普通こういったタイトルは「釣り」っていわれていまして、昔は「羊頭狗肉」と呼ばれていました。
もしも万が一、肥育ホルモンとしてアメリカ産牛肉に使用されているエストロゲンが基準値以上検出されたとしましょう。でも、これは前立腺がんに対してはリスクとなるというより前立腺がんを抑え込むんじゃないの?繰り返しになりますが、
エストロゲン系の薬って前立腺がん治療に使用されているんですけどね❗
例えばエストラジオールが主成分の「プロセキソール錠」はごくごく一般的に前立腺がん治療に使用されています(実は私は泌尿器科医です)。この記事を書かれた奥野修司さんは、多分医学知識はほとんどないと思われます。
じゃあ、日本の肥育ホルモン剤対策はどうなっているか?
アメリカ産の牛肉怖い怖いさんが伝えているホルモン剤とがんのリスクは無関係であると考えて良さそうです。ところで国はどのように考えているのでしょうか?内閣府食品安全委員会のサイトにこんなことが書かれています。
食品の国際規格を設定する FAO/WHO 合同食品規格委員会(CODEX)において、天然型のホルモン剤については肥育ホルモン剤として適正に使用される場合の残留は、ヒトの健康に対して危害となる可能性はないとして、残留基準値そのものが必要ないとされています。
そうなんです、
政府は公式見解として残留ホルモン剤によって健康が損なわれることは無いと考え伝えています
さらに国民の健康を担う厚生労働省は厚生労働省は
食品衛生法に基づき、毎年、輸入食品監視指導計画を策定し、食肉等の輸入時に検疫所において合成型ホルモン剤などの残留物質のモニタリング検査を実施し、検査結果を公表しています
とされています。
もしも、文春に書かれているような某スーパーの牛肉から基準値超えの残留ホルモンが検出されたのなら、文春の取材に応じるより先に管轄の保健所あるいは直接厚生労働省に連絡するべきなんじゃ無いでしょうか、だって研究している人は国立大学の職員や医師なんですから。
そういえば近藤誠氏による記事を掲載したり、本を出版していたの文藝春秋社でしたね。芸能ネタ、政治ネタで文春砲と恐れられていますが、医療ネタは残念な状態のようです。