開業医の落とし穴:開業5年、順風満帆なのに差し押さえ・競売⋯なんじゃこりゃ⁉

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今から開業しようと思っている医師のみなさんに、私が経験したとんでもない事態を知ってもらいたいと思います。

1997年に目黒区で当院は開業いたしました。分譲マンションの1階部分が店舗として使用できるようになっていて、その1階部分を賃貸で(確か月60万円の家賃)借りて開業しました。

開業して順調なのになぜかクリニックが売りに出されていたというお話です。

開業5年目、やっと余裕が出てきたある日、内容証明の郵便物がクリニックに届きました

それまで内容証明の郵便なんて見たこともない私は恐る恐る封筒を開けると、あなたの家賃を差し押さえします、なんてことが書かれています。なんで家賃をテナントのオーナーさんじゃなくて、見ず知らずの人に差し押さえされるのか、まったくわけがわかりません。旧知の弁護士さんに相談すると「まずはすぐにテナントの登記簿を取り寄せなさい」とのアドバイス。登記簿なんて知らない世界で生きてきた私は、生まれて初めて法務局を訪れ、テナントの登記簿を取り寄せました。

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これが現在の登記簿、付箋をつけたところにオーナーのお名前と家賃を差し押さえた方のお名前等が記載されています。

その登記簿を見るとオーナーさんが当然所有権を持っていたのですが、そのあとに平成14年6月付けで、私に家賃を差し押さえたと内容証明を送った方の名前で「仮差押え」って記載されています。なんでこんなことになっているのか理解できないパニック状態の私。

オーナーさんに電話すると奥様が出て

「主人が先日急死して、いろいろなところから請求書とか差し押さえるぞとかの手紙がバンバン届いて、私もわけがわからないんです」

との回答。クリニックとして借りていたテナントのオーナーさんはかなり手広く事業を行っていた立派なオジサンでしたが、事業を行う上で多数の金融機関から借り入れの返済が遅れたり、取引先への支払いが滞っていた様子。

ギャーっ、クリニックが売りに出ていた❗

家賃をオーナーさんの会社に払うのか、それとも差し押さえした人に払うのか、普通の医師だったらそんなことわかるわけありません。弁護士さんのアドバイスにしたkがって毎月の家賃は裁判所にあずかってもらう(正式な名称は忘却)ようにして、クリニックを運営していました。ちなみにクリニックの経営状態は順調でした。

ある日、再度登記簿を取り寄せたところ某都市銀行の名前で「差押え」と記載されていました。慌てふためいた私は都市銀行に勤務する友人に電話したとこと「お前のクリニック、競売になってるぞ❗」との驚きの回答。今ほどネットは一般的じゃなかった時代ですが、裁判所が差押えの通知をした不動産がその当時でもネットで見られる様になっていました。自分のPCでその競売物件を探して見てみると⋯

しっかり五本木クリニックの看板付の外観がくっきり明瞭に「競売物件」として画像つきでアップされていました

ひーっ、これじゃまるで当院が競売物件として売りにでているって第三者は思っちゃうじゃないですか。順調に患者さんがいらして、開業5年になってやっと夏休みに家族旅行でハワイに行く計画を立てていた私は目の前が真っ暗になってしまいました。地元の方にやっとなじんでもらった五本木クリニック、簡単に移転もできません。

当院の立地は住宅街であり、そうそう簡単に近くで開業できるような場所・テナントなんて見当たらないもん(涙)。

売りに出ている当院を取り返すまでの道のり

にっちもさっちも行かなくなった私は決断しました。

競売物件となっているクリニック(正確にはテナント)を自分で買うことです

しかし、開業時に銀行から借り入れもしていますので、借金がある状態でさらに銀行って融資してくれるんでしょうか?開業時にお世話になった銀行に相談すると「競売物件に対する融資はちょっとねえ、さらに銀行の差し押さえ前に、個人が差し押さえているからこれは⋯」。競売を避けるにはまず、個人の差し押さえを解除して、それからオーナーが取引していた銀行と話をして、オーナーが借りていたお金を肩代わりするしか方法はない、ってことのようでした。

毎月の家賃を裁判所に届けつつ、まずは個人で差押えした方にお話しをしました。1000万円程度をオーナに貸し付けていた方は私の事情を理解してくれて、1000万円には満たないお金で納得してくれて、差し押さえを解除してくれました(その節はほんとうにお世話になりました、ありがとうございます)。

これで毎月の家賃を裁判所に毎月毎月届ける手間は省けましたし、差し押さえしている銀行と話がつけば、無事クリニック競売問題は解決です。

クリニックが当地で運営できない可能性もあって、家族もヒヤヒヤしていました。夏休みのハワイ旅行も近づいてきています。窮地に立たされた私、当然ハワイ旅行はキャンセルするのが当たり前なんでしょうけど、家族に心配をかけてしまったことを考慮して、そして自分も差押え、差し押さえ解除なんて、今まで経験したことの無い苦労でクッタクタ、そしてクリニックが売りに出ていると勘違いされるような環境から逃避行動であろうと今考えると異常な判断をして、家族とともに旅行に出ちゃったのです。

銀行との折衝⋯時差でボケボケ

開業時にお世話になった銀行にとりあえずは、個人の差し押さえは解除できたことを報告して、残るは某都市銀行との折衝だけであることを報告しました。すると銀行の態度は変化して、某都市銀行と話をつければ私のテナント買い取りの融資を考慮する、って方向になりました。

私が突然某都市銀行を訪れて「あのー、競売になっている私がお借りしているテナント、買い取らせてくれませんか?」なんて申し出でも、先方が相手にするわけありません。クリニックのテナントを仲介してくれた不動産屋さんが、その交渉を承諾してくれたので、私は家族とともにハワイに旅立ちました(このあたりの感覚がお前は狂っている、とのご批判ありと思います)。

ハワイとの時差は17時間、逆に考えれば7時間、銀行が融資の会議をするのはその当時17時くらい、ってことはハワイにいる私の携帯に途中経過が報告されるのはハワイ時間の夜中の0時ってことになります。不動産屋さんは某都市銀行と折衝して、売却に応じてもらえる金額が明らかになりました。その金額に近い融資を自分は銀行から融資してもらうように連絡、融資に対する会議が終わってから途中経過が携帯電話にかかってくるのはハワイでは当然夜中。

日中は家族サービスで遊びまわり、夜中になると不動産屋さんと銀行とのやりとり。せっかくの旅行なのに身も心もボロボロ、多分家族も「パパ、夜中になにこそこそ電話しているんだ」と楽しい休みにはならなかったでしょうね。

最終的には銀行も融資に応じてくれて、競売物件を買い取ることができました

五本木クリニックのあるマンションの1階は私が所有することになりました、目出度し、めでたし。まあ、この時に銀行とのやりとりも、実際はそうそう簡単にいきませんでしたが、今回ははしょります(いつかこれもブログネタにする予定です)。

開業を考えている医師の方、テナントを借りての開業なら必ず登記簿を取り寄せることをお勧めいたします、それも定期的にね。

開業を考えている方へ、これも参考にしてくださいませ。

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自分ひとりでクリニックを運営するので、当然こうなりますのでご覚悟を。

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

桑満おさむ医師のプロフィール詳細

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