一時期は飛ぶ鳥を落とす勢いだった「東洋経済ON LINE」ですが、最近になって、劣化が取り沙汰されています。若干弱り気味の東洋経済ですが、非常に気になる医学関連記事があったので、Evernoteに記録していたものを読み返しました。
本記事の内容
がん細胞を兵糧攻めにして約7割の末期がんが改善した??
「がん細胞を兵糧攻め!『究極糖質制限』の威力」とタイトルされたこの記事です。
インチキがん免疫治療クリニックと違って、このCTは加工や別の患者さんのものを使用してはいません。
これだけ見たらがん免疫栄養ケトン食療法ってそれなりに効果あるじゃん
一般の方はもちろんのこと、医療関係者も「ありえるかも?」と考えてしまいます。この「がん細胞を兵糧攻め」の記事で取り上げられている多摩南部地域病院外科の古川健司医師の著作「ケトン食ががんを消す」(光文社新書)を読んだのですが⋯かなり怪しい雲行きの内容でした。
そこで半年ぶりに古川健司医師の名前やがん免疫栄養ケトン食療法等のキーワードで検索すると、どうもがん免疫栄養ケトン食療法も古川健司医師もダークサイドに堕ちてしまったようです。最初からダークサイド側だったかもしれませんけど。
がん免疫栄養ケトン食療法は分子整合栄養医学・高濃度ビタミンC点滴療法・水素療法が基本?
栄養学に詳しい医師は意外と少ないのです、多分病院等における栄養管理は栄養師さんに任せっぱなしであることも理由の一つですが、生活習慣病は食生活と密接な関係があることは常識であっても、がん治療において「これを食べればがんが治る」とか「がん治療においてはこの食生活が効果的」とされている、いわゆる食事療法は確立されていないことも大きな理由だと考えます。
知識の乏しい医師及び医療関係者がハマってしまう疑似科学というか、ニセ医学に「分子整合栄養医学」があります
別名「オーソモレキュラー療法(Orthomolecular medicine)」とか「分子栄養学」です。この疑似栄養学が非常に扱いにくい物件であるのはオーソモレキュラーの提唱者がノーベル賞をダブル受賞したライナス・ポーリングさんであることが大きかもしれません。しかし、いくらノーベル賞を受賞したといっても「騏驎も老いては駑馬に劣る」の故事もありますんで⋯。医師側が栄養学の知識が乏しいことの影響もあるのか、極々一部の医師の間に分子整合栄養医学やオーソモレキュラー療法は非常にウケが良いようでセミナー等が行われていことは先週ブログでお伝えしました。
オーソモレキュラー療法にハマった医療関係者は高濃度ビタミンC点滴療法もがん治療に使用しますし、今ではほとんど過去のものになりつつある水素水も大好きです。
がんと闘病中の方やご家族ががん治療中の方は食事でどうにかならないのか、あるいはチョットでもがん治療に役立つ食事はないのか、と考えて当然です。標準医療・標準治療ではがん患者さんへの食事のアドバイスを行っていますので、ご紹介します。米国対がん協会が「Nutrition and physical activity guidelines for cancer survivors」(CA Cancer J Clin. 2012 Jul-Aug;62 (4) :243-74)とのタイトルで声明を出しています。これはがん研究センターのがん情報センターでも紹介されています。
がんサバイバーの栄養と運動
健康的な体重へ減量し、その体重を維持しましょう。
過体重や肥満の場合は、高カロリーの食物や飲料を制限し、減量するために運動量を増やしましょう。
定期的に運動しましょう。
運動不足を避けましょう。そして、診断後もなるべく早く通常の日常生活を取り戻しましょう。
1週間に150分以上運動することを目標としましょう。
1週間のうち2日以上は筋力トレーニングを運動の中に含めましょう。
これ以上でもこれ以下でもありません。がん治療に役立つ特別な食事は残念ながら無いことが明らかですよね。バランス良い食事を摂りながら体重を管理して定期的に運動をしましょう、という昔から言われてきたことが、がんサバイバーに勧められる食生活なんです。
がん免疫栄養ケトン食療法のエビデンスレベルは?
古川健司医師が実践しているがん細胞を兵糧攻めにする「がん免疫栄養ケトン食療法」ですが、メディアの注目は集めたようですが、医療業界ではあまり注目されていないのはエビデンスレベルにあります。どんなに効果のあった新規のがん治療法であっても、症例数が一人だったら、お客様の個人的感想レベルであることはお分かりだと思います。医学的なエビデンスは以下のように考えられています。
古川健司医師の「がん免疫栄養ケトン食療法」は著作「ケトン食ががんを消す」によれば、症例報告、症例集積レベルであり、6段階のエビデンスレベルの下から2番めにあたります。「がん免疫栄養ケトン食療法」が行けそうな試みであった場合、他の医療機関が同じ考えに基づいた治療で追試を行うのが一般的な新しい治療方法の流れなんですが⋯少なくとも論文レベルでそのような報告はありません。多くの医療関係者は古川健司医師の治療方法をリスキーであり、試す価値のない新しい治療方法と認識しているからなんです。
世の中で認められない、ガリレオ詭弁によって地下に潜るのが怖いトンデモ医学
医学系はもちろんのこと、科学全般で自分は大発見をした、と思い込んでしまう人がいます。
彼らが自分の理論を世間が認めない時に持ち出すのが「ガリレオ詭弁」。ガリレオが地動説を唱えたが、今までの考え方と全く異なったものであるがために世間の人は、自分の正当さを理解できない、今回の自分の大発見を受け入れてもらえないのは、ガリレオの立場と同じである、という考え方をする人がいるのです。ガリレオの場合、彼の主張が正しかったことが後に証明されていますが⋯世間が認めないと表の活動が控えられて、喩えで使われる「地下に潜る」ってことが起きてしまいます。
数多くのメディアで取り上げられた「がん免疫栄養ケトン食療法」ですが、標準医療からは注目を集めなかったためか、こんなセミナーで伝授されるようになっています。
このセミナー、どう見てもトンデモ医学と言うか、ニセ医学のオンパレード状態です
もし「がん免疫栄養ケトン食療法」がまともな医学的治療方法であると考えているのなら、こんなセミナーの講師なんてやっていないで、医学論文を執筆されたほうが遥かに医学界には影響があると思うのですが⋯。