ヒルドイドという処方薬があります。皮膚の保湿に使われる代表的なクスリですが、当然ながら処方されるのは医療保険上認められている症状に限ります。ですが、本来の使用目的ではなく保湿効果が高いことから美容目的で使う方が急増し問題になりました。五本木クリニックでもヒルドイド処方しろ❗と乗り込まれることがしばしば。
本記事の内容
なんでヒルドイド出してくれないのよ?
当院では美容クリーム代わりのヒルドイド処方はお断りしています。
美容目的の処方は健康保険適用できません??♂️
泌尿器や内科の診療の際に「いつも他のクリニックでヒルドイド処方してもらっているのですが、いただけますか」と尋ねられ「何の為に使っているんですか?」と返答すると、多くの場合「ヒルドイドって保湿効果が高いので美容クリームより良いって友達が言っていたから」なんて答えが返ってきます。
ヒルドイドソフト軟膏とヒルロイドローション(ヒルドイドのことをヒルロイドって呼んでいる人が結構いますよね)はエイジングケアがある、なんて話がネットを中心に拡散して本来の適応症ではないのに処方されているのです。
美容目的の処方が健康保険でカバーされるワケがないのですが⋯。
当院ではどう見ても美容目的でヒルドイドを希望する患者さんは、全てきっぱりお断りしています⋯ガタン、と椅子を立ち上がって「じゃあ、いつものクリニックに行きます、キッー❗」って捨て台詞を残して立ち去った患者さん(おばさま中心)多数、じゃあ最初から他のクリニック行けよ、と心のなかでつぶやく私。
これはローションですが、他に剤型としてクリーム、軟膏、そしてゲルがあります。処方薬ですから適応症が決められていて、さらに副作用もあるんですけどねえ。
処方薬であるヒルドイドを美容クリーム代わりに使用している人へ
確かにヒルドイドは他の保湿系処方薬と違って尿素が入っていませんので、ピリピリすることが無く、アトピー性皮膚炎の保湿に有用な薬です。しかし、以前は適応症が皮脂欠乏症、進行性指掌角皮症、凍瘡、肥厚性瘢痕・ケロイドの治療と予防などでしたので、病名が「アトピー性皮膚炎」だけだとレセプトが切られていました。
先日の朝日新聞デジタルで「美容クリームより処方薬 医療費増への危機感薄く」とのタイトルでこんな記事がありました。
ここ数年、女性誌やウェブに、こんな特集記事が続々と出る。保湿効果があるヒルドイドは、医師が必要だと判断した場合のみ処方されるが、雑誌には「娘に処方してもらったものを自分に塗ったらしっとり」といった体験談も載る。
さらに
東京都内の40代の開業医は「患者に『多めに出して欲しい』と言われれば、出さざるを得ない」と話す。
はあ、出さざる得ない?
医師としてのプライド及び日本の健康保険制度が崩壊寸前であるのになにを言ってんだ(怒)
「友達はヒルドイド処方してもらっているのに、なんでよ、キーッ」
私は美容目的のヒルドイド処方を希望する方にはキッパリ「保険診療では処方できません。薬は適切な使用量があるので、多めに処方もできません」と答えて多くのおばさまに怒声を浴びせられててきました。ご友人は他のクリニックで処方してもらってるのにしてくれないという理由で「二度と来るもんか」との捨て台詞残した豪快な方もいらっしゃいました。
美容目的と知っていながらヒルドイドを処方しているクリニックの存在は大問題です。
なぜ、こんなことになってしまっているのでしょうか?
ヒルドイドは処方薬としての販売額が31位❗マルホの売上の半分以上❗
ヒルドイドを製造販売している製薬会社は「マルホ」で、一般の方には馴染みのない会社だと思います。皮膚科を標榜していない医師にとっても武田やアステラス、ファイザー、グラクソなんかと違ってマイナーな製薬会社との認識をしているのではないでしょうか?実はマルホのヒルドイドって2016年には医療用医薬品国内売上高ベスト50に入っている大ヒット商品なんです❗
さらにマルホの売上の50パーセント以上がヒルドイド❗
主力製品である血行促進・皮膚保湿剤「ヒルドイド」の連結売上高に対する比率は、平成26年9月期で約51%を占めております。
マルホ有価証券報告書
以前からヒルドイドの保険適応外使用が気になっていた私はなんどかMRさんにこの件を伝えたのですが、上司に報告することは躊躇したんでしょうね。まあ、企業は利益をあげて継続することがいちばん大切なことであることは十分理解できます。
しかし、あまりにもいい加減な処方が増えると社会保険診療報酬支払基金とかに目をつけられてバシバシとレセプトと切られ他医療機関からきついクレームが来るんじゃないでしょうか?
ヒルドイドGETしたいママ達との攻防
私が美容クリーム代わりのヒルドイドを処方しないことを知った方の中にはなかなかトリッキーな手段を用いる方がいます。
「お母さんに頼まれたんですけど、ヒルドイドください」
と子供に言わせたり
お子さんがアトピーで通院しているのに乗じて
「ヒルドイド、ちょっと多めに処方してくれないですか?」
自治体によって若干の違いがあるようですが、当院のある目黒区は中学生までの医療費は自己負担が0円です。
お子さんのアトピー等の診察のついでに、お母さん用のヒルドイドをゲットすることが可能ではあるのです、それも自己負担0円で。
こんな場合は「この子が必要としているヒルドイドは月にこれくらいだから、これ以上は必要ないのでだせないよ」と私は答えるようにしています。
「子供が通院しているんだから、ちょっとくらい多めに出してくれてもいいのに、チッ」
って感じでドアを乱暴にしめてクリニックを去っていきます⋯
多分、幼稚園や小学校のママ友に悪口を拡散しているんでしょうね、多分。
ちなみに「じゃあ、先生は何使っているのよ」と質問された場合、私自身amazonでいつも購入しているのは「ボザール マニュアン」というかなりお安いものです。コレ、実は、当院美容担当の松下医師が長年ご愛用してまして、真似して私も使用してるのです。本来はハンドクリームなんですが、手についたのをこっそり顔に塗っちゃっています(良い子は真似しちゃダメだよ笑)。
ネット情報の恐ろしさ⋯日本の医療を崩壊させる?
湿布剤は一回の処方数が限定されていますし、一部の過激な意見の持ち主は漢方薬を処方薬から外せなんてことを言っています。
ヒルドイドを無闇にばらまく医師の存在は大問題
美容クリーム的な使用法が見え見えのヒルドイドを患者さんの言いなりに処方しちゃう医師もかなり問題です。使用目的が病気以外であることが分かり次第、ヒルドイドの処方は健康保険を使用しない自費にしちゃえばいいのではないでしょうか?
ヒルドイドが美容クリームとして有用であるとの情報源はネットの節約上手系か半可通の美容情報サイトだと思われます。現在、テレビ番組のネタもネット情報依存と言っても過言ではないと思います。今後、ヒルドイドが美容クリームとして効果があるとの情報を奥様番組、あるいは健康情報関連番組で取り上げたら、マルホはウホウホ、健保はガタガタになる危険性があります。
日本の保険医療は近い将来破綻すると多くの人が考えていますが(既に破綻しているとの考えもあり、ヒルドイドと同じような成分で構成された美容クリームは、私が常々批判してきたあの小林製薬でさえ、既にOTCとして販売しています❗
マルホさん、ヒルドイドに絶対的な自信があるのならOTCにスイッチしたらいかがでしょうか?
処方薬の目的外使用が明らかな場合は医師側もきっぱり断りましょう⋯速攻で医療機関の口コミサイトに悪口を投稿されますけど(体験談)。
美容って夢のある世界である一方で、イメージ産業との批判も当然あるとは思います。そんな美容の世界に節約上手さんが不正な処方を推奨するようなヘンテコな記事がネット上に多く見受けられますが⋯非常に個人的で申し訳ないのですが、そのような考えの患者さんは当院に来ていただかなくても結構です。