間質性膀胱炎

間質性膀胱炎・膀胱痛症候群とは?

間質性膀胱炎・膀胱痛症候群(Interstitial cystitis/bladder pain syndromeinterstitial cystitis: :IC/BPS)とは、「膀胱に関連する慢性の骨盤部の疼痛,圧迫感または不快感があり,尿意亢進や頻尿などの下部尿路症状を伴い,混同しうる疾患がない状態」と定義されます。一部のIC/BPSでは、膀胱内にハンナ病変と呼ばれる膀胱粘膜の発赤病変を認めることがあります。このハンナ病変の有無によって、IC/BPS はハンナ型間質性膀胱炎 (Hunner-type IC: HIC) と膀胱痛症候群(BPS)の2 亜型に分類されます。ハンナ型間質性膀胱炎は2015 年に厚生労働省指定難病となっており、一般的に「間質性膀胱炎」と言われるものは、このハンナ型間質性膀胱炎のことを指します。

間質性膀胱炎の原因

IC/BPS の病態は未だに解明されていません。これまでに提唱されている仮説として、①尿路上皮機能不全、②炎症、③低酸素状態(血流異常)、④神経原性炎症(興奮性の亢進)、⑤アレルギー・自己免疫学的機序、⑥微生物感染、⑦膀胱以外の他臓器疾患の関連症状といったものがありますが、いずれも決定的な結論には至っていません。
しかし、近年の研究によってハンナ型間質性膀胱炎は免疫の異常によって発症する、膀胱の免疫疾患であることが明らかにされました。一方、膀胱痛症候群(BPS)は、膀胱以外の病変の関連症状や、神経・内分泌・生理学的な異常によっておこる知覚の亢進によってハンナ型間質性膀胱炎に類似した臨床症状が引き起こされているのではないかと想定されています。また、アレルギー素因などが複合的に関与して病態が形成されている可能性があります。

間質性膀胱炎の診断

 間質性膀胱炎を疑った場合には、かならず膀胱鏡検査を行います。そこで膀胱内にハンナ病変を認めた場合はハンナ型間質性膀胱炎、ハンナ病変を認めない場合は膀胱痛症候群と診断し、それぞれ別個に治療戦略を立てます。
上述したようにハンナ型間質性膀胱炎 と膀胱痛症候群の病態はまったく異なるため、膀胱鏡検査でハンナ病変の有無を正確に見極めることが極めて重要です。

間質性膀胱炎の治療

最も大切なことは、ハンナ型間質性膀胱炎と膀胱痛症候群 の病型分類を明確にし、個々の病型に対して治療戦略を立てることです。すなわち、ハンナ型間質性膀胱炎では免疫の異常反応が病態・症状との関連性を有している可能性を考慮し、対応を検討します。膀胱痛症候群では神経骨盤部の血流改善や、神経変調療法(neuromodulation)、過敏症状への総合的な対応を考慮します。

保存的療法

行動療法

飲水コントロールや膀胱訓練は、尿意切迫感や頻尿といった下部尿路症状に対して有効な可能性があります。しかし疼痛が主訴のハンナ型間質性膀胱炎では逆に、飲水量を制限すると症状が増悪することがあるので注意が必要です。

食事療法

酸性食品、高カリウム食、カフェイン、香辛料、アルコールなど個々の症状を悪化させる食品を避ける食事療法は、両病型ともに有効です。

理学療法

下腹部、骨盤部の筋膜治療による疼痛の緩和が示唆されています。その作用機序からは、特に膀胱痛症候群で積極的な適応を検討できるでしょう。

薬物療法

三環系抗うつ薬(Amitriptyline)

ヒスタミンH1 受容体拮抗作用による肥満細胞活性の抑制や、セロトニン、ノルアドレナリン再取り込み阻害による中枢での疼痛伝達経路の制御などによる作用機序が想定されています。薬理学的機序からは膀胱痛症候群で第一選択薬となる場合が多いです。

トシル酸スプラタスト(Suplatast tosilate)

タイプ2 ヘルパーT 細胞系のサイトカインを抑制する抗アレルギー薬です。有効性の証拠は低いですが、作用機序からは膀胱痛症候群で効果を期待できる可能性があります。

ステロイド(Steroid)

作用機序からは、ハンナ型間質性膀胱炎に適応があるといえます。第一選択ではなく、先行治療に反応しない場合などに適応を考慮しますが、長期投与による副作用が問題です。

抗生物質

有効性を支持する報告はありませんが、治療経過中に認められる一過性の症状増悪(フレアアップ)は急性細菌性膀胱炎の併発による場合が多く、その場合には抗生物質の限定的な使用が効果的です。

膀胱(腔/壁)内注入療法

DMSO(Dimethyl sulfoxide)

ハンナ型間質性膀胱炎での有効性が報告されています。炎症抑制や筋弛緩作用があるといわれています。2021年の保険収載では、本邦初のハンナ型間質性膀胱炎治療薬として承認されました。重大な副作用はほとんどなく、高い奏効率を誇りますが、治療効果持続期間が比較的短く(多くは1年未満)頻回の治療が必要となります。

外科的治療

ハンナ型間質性膀胱炎手術(経尿道)

ハンナ型間質性膀胱炎ではハンナ病変部の切除・焼灼がは症状の改善にきわめて有効であることは以前から知られていました。2022年に、ハンナ病変の経尿道的切除・焼灼に膀胱水圧拡張術を併用した術式が「ハンナ型間質性膀胱炎手術(経尿道)」として新規保険収載されました(K800-4)。現行、ハンナ型間質性膀胱炎では最も症状の改善が期待できる治療法です。ただし、疼痛には著効するものの、膀胱が変形・委縮してしまったケースでは疼痛は改善しても頻尿、尿意切迫感などの下部尿路症状は改善されず無効であることも多いです。著効するからといって繰り返し行うと、萎縮膀胱へ進行させるリスクとなります。そのため、ジメチルスルホキシド膀胱内注入療法と組み合わせて出来る限り手術実施回数を抑えることが長期的には重要です。

膀胱水圧拡張術

古くからよく行われている治療です。効果の機序は不明ですが、圧誘発虚血による求心性神経の変性や、抗炎症効果、神経成長因子(nerve growth factor:NGF)や抗増殖因子(antiproliferative factor:APF)の減少などが考えられています。合併症として膀胱破裂があり、長時間の拡張は膀胱壊死を起こす可能性があります。膀胱痛症候群では診断的治療として重要な手技ですが、ハンナ型間質性膀胱炎では上述したハンナ病変の焼灼のほうが治療としての意義は高いです。

膀胱摘出術・膀胱拡大術

萎縮膀胱や、膀胱尿管逆流などを呈する進行したハンナ型間質性膀胱炎に対して最終手段として行われます。膀胱に主病変のない膀胱痛症候群には基本的に適用になりません。侵襲性の高さから安易に行うべきものではなく、「いかに膀胱摘出に至らないように症状や膀胱容量の温存に対する長期的管理を行うか?」という点に治療の重点を置くべきです。

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桑満おさむ医師

このページの文責:桑満おさむ(医師)
Osamu Kuwamitsu, M.D.

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区で五本木クリニックを開院。

患者さん1人ひとりのホームドクターになるという理念のもと、常に敷居が低くどなたでもお気軽に来院できるクリニックを目指し、とくに日帰り検査・手術に力を入れています。技術の向上はもちろんですがより新しい医療機器や治療方法・医学情報の提供につとめています。患者さんとの会話を大切にしています。

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