週刊誌は、泌尿器がんの情報にとって有益か?
我が国が世界でも類を見ない超高齢化社会となり、国民の癌に対する関心が高まってきている中、週刊誌は、癌に関する情報をどこまで正確に表現し、どのように伝えているのであろうか。
以前、2009年7月から18ヶ月間において、一般誌であり、発行部数が最も多い6つの主要な週刊誌 (週刊朝日、文春、新潮、ポスト、現代、サンデー毎日) を対象に、「がん」という言葉を含む記事や広告を抽出・集計し、解析した。
今回は、この内で高齢化に伴って急増する前立腺がんなどの泌尿器がんに焦点を当てみました。
これら週刊誌の発行部数は、6誌で週平均にして計2,700,000部であり、新聞発行部数の約1割である。全体では、がん関連記事が全記事の約1.9% (696/36398) を、がん関連広告が全広告の約1.6% (341/21946) を占めていた。がん種別ではどんながんが多いのか、週刊誌の読者層である壮年期以降の男性が罹患する率の高い肺がん (9.9%) や泌尿器がん (8.3%) の割合が多かった。
泌尿器のがんが一番雑誌に掲載されている!
この泌尿器がん全122記事 (広告記事を含む) の内では、なんと119記事 (97.5%) が前立腺がんに関するものであり、腎がんや膀胱がんは合わせても2.5%に過ぎなかった。
前立腺がんの記事を、内容別に分類すると
- がんの治療に関するものが最も多く (44.5%)
- 症例報告 (有名人の前立腺がん罹患もしくは死亡記事) で (23.5%)
- PSA前立腺がん検診に関する記事 (6.7%)
著名人のがん闘病記事に引き続き、前立腺がん検診の啓蒙記事特集となっている傾向もみられた。とくにコメディアンの間寛平氏が自らの前立腺がんを公表した後は (2010年1月公表) 、前立腺がん記事が約3倍に増加し、PSA検診の普及を啓蒙するキャンペーンであるブルークローバーキャンペーンが週刊誌にも登場するようになった。
前立腺がん記事では、総計で延べ42回の専門医のコメントが掲載されていたが、うち26回 (62%) が2人の専門医 (泌尿器科医と放射線科医) で構成されていた。
結果から、週刊誌における前立腺がん記事は、壮年期以降の読者へ、前立腺がんへの知見を深め、特にがん早期発見に対する良き啓蒙となる有効な手段である可能性があるのではないかと思われた。しかし、いくつかの問題点もある。まず泌尿器がんの記事はほとんどが前立腺がんに対する記事であることである。
日本人がん罹患率は、それぞれ10万人当たり、前立腺がんが69人、膀胱がんが20人、腎がんが16人である。週刊誌の記事では、泌尿器がんの内、97%以上が前立腺がんに関するものであり、週刊誌は、膀胱がんや腎がんの情報を一般市民に伝えるという意味においては不十分ではないか。次に、有名人ががんに罹患したことやがんで亡くなったことは、公衆の関心をそのがんへ引きつけるという意味で重要な役割を果たしている。
新聞紙のがん記事は、医療制度や医療事故の記事に関するものが多いが、週刊誌の記事は患者目線で記事が書かれていることが多い。
さらに、記事で掲載される専門医の意見は、医学的には全く間違いはないが、記者の取材のし易さや、読者数増加を図るため、記事への取材対象は、読者にとって特に著名である特定の医師に偏りやすい。週刊誌は、公衆へ前立腺がんへの情報を伝える有用な紙上媒体であるが、これらの特徴を我々がん専門医は良く熟知する必要がある。
これは論文として当院泌尿器科の永田医師が発表したものを一部一般向けに院長が編集して掲載しました。